観測調査と発信施設への集客、どちらも使命
氷の海をこよなく愛する彼を流氷ヲタクと人は呼ぶ。その正体は、海の調査の専門家。流氷が流れ着く紋別港の展望塔オホーツクタワーを拠点に、地道な観測と独自の情報発信に取り組んでいます。
流氷との運命の出会いは約30年前。日本では珍しい海洋学部で学んでいた村井さんは、卒業論文を書くために紋別を訪れ、初めて流氷を見ました。
「水平線まで見渡す限り一面が真っ白で、海全体が凍ってしまうという凄まじいエネルギーに圧倒されました。この光景を毎年見たい、流氷をもっと知りたいと思い、北海道に住むことを決めました」
恩師の助けもあって卒業後は札幌の海洋調査会社に就職。継続的な観測と研究発表など様々な経験を20年以上積んだのち、再び憧れの紋別へ。紋別観光協会を経て、観光砕氷船ガリンコ号IIの運航とオホーツクタワーの運営を行う現在の会社に入社しました。
研究に加え、流氷を軸に海の魅力や危機的な実態を発信していくことも村井さんの使命です。
「流氷には植物プランクトンが付着しているため漁場を栄養豊かにする働きがありますし、流氷に乗ってシベリアからやってくる動物もいる。多様な生態系を育むのに大きな役割を果たしている流氷が、主に温暖化の影響で減少傾向にあることは深刻な問題。流氷を学べば、地球規模の視野で環境問題をとらえることができるんですよ」
観光スポットでもあるタワーの館内をより魅力的にしようと、自作の映像展示やクリオネ観察会など新しいメニューも増やしてきました。以前、飼育中のタコを夜な夜な調教して、キャップを自分で開けて容器の中のカニを食べるという芸(?)を仕込んだこともあったとか。
「お客さんに喜んでもらえるよう必死です。館内の魅力アップはひとりで始めたことですが、最近では協力者や応援も増えてきて、手応えを感じ始めているところです」
いつか紋別港が、海を愛する人たちが集う聖地になる。それが村井さんの夢です。そのためにオホーツクタワーを、調査研究機能と観光的な魅力が融合したハイブリッドな施設に育ててゆくことが目標。
「日々の観測データや海の写真、貴重な映像を活用したユニークな展示や体験型コンテンツをもっと充実させて、海洋学習をしたい人にも観光客にも楽しんでもらえるように工夫していきます。館内ガイドができる人材も育てたいですし、なんなら自分もガイドしたい(笑)。2021年1月には3代目ガリンコ号Ⅲイメル(※アイヌ語で「光」)が就航するので、それに向けてパンフレットを刷新したり、イメルの流氷観光と連携した海洋学習プログラムを企画したりと、やりたいことは尽きませんね」
凍る海に魅入られた熱いヲタク、いや熱い男、村井さんの流氷愛とチャレンジ精神はますますヒートアップしています。