声を上げて海を守る。海岸清掃でもまず声!
海なし県・埼玉で生まれ育った矢澤さんが海ごみ問題に闘志を燃やし始めたのは、IVUSAでの活動がキッカケでした。
IVUSAとは、約80大学の4000人近い会員が所属する国内最大級の学生ボランティア団体で、国際協力、環境保護、地域活性化、災害救援、子どもの教育支援の5分野を軸に国内外の各地で様々な活動をしています。高校卒業までサッカー漬けだった矢澤さんは、「もっと社会を知り、新しく挑戦するものを見つけたい」という動機でIVUSAに入会。そして大学1年の夏、海と日本プロジェクトが支援する海ごみ対策活動「九十九里浜清掃」に参加した際に、その後の学生生活を方向づける出会いがありました。
「九十九里浜清掃は2002年から続いているIVUSAの恒例行事で、約300人が数日かけて、全長66kmの浜の全域を2チームに分かれて両端から清掃します。参加する前は、単なるごみ拾いだろうと思っていたのですが…当時のリーダーだった先輩に出会って考えが180度変わりました。その先輩は、海ごみ問題という社会課題に向かって、いかにチームで意志を統一し、いかに多くの人を巻き込んでいくかに情熱を注いでいた。絶対にごみを拾いきって自分たちの意志を示すんだという気迫に圧倒され、私も見事に巻き込まれて(笑)、『熱意をもって発信し続けたら社会はもっと良くなる』という可能性を信じることが出来たんです」
九十九里浜でごみを拾う行為そのものが問題を根本解決するわけではなく、参加者が海ごみ問題に気づくキッカケを作るということが大事なんだ。真剣に伝え続けたら人は動く!…先輩の言葉から矢澤さんが学んだことは数多くあります。中でも嬉しかった気付きは、「清掃にも大きな声は役立つ」ということ。
「海岸清掃って黙々とごみを拾うイメージがありませんか?でも実際は賑やかで驚いたんですよ。ごみを分別するために声を掛け合いながら進むし、拾いきるぞー!という雄叫びや、エッサ!エッサ!という歌みたいなのもある。私は部活の経験で声出しに慣れているので頑張って大声を出していたら、先輩が大勢の中から私の存在に気付いて近づいて来て、『君もいつかリーダーの一人になるんだ』と言ってくれた。感激して、先輩への憧れだけではなく自分自身のチャレンジとしてやってみたいという意志が芽生えました」
以来、海ごみ問題が自分ごとになった矢澤さんは、関東以外にも新潟や沖縄などで清掃に参加。常に声かけやコミュニケーションを重視し、現地の学生や住民の方と共に取り組み、環境意識を底上げするための啓発を続けてきました。そして今年、2020年の九十九里浜清掃ではついに、先輩の予言(?)通り、白山クラブのリーダーを務めます。新型コロナウイルス対策で夏の開催は延期され、9月現在、開催日程は未定ですが、SNSでの発信など事前に出来ることを進めています。
人生の糧となる出会いや仲間。海ごみ問題に向き合い勉強や実践を重ねる中で多くを得てきた矢澤さんは、感謝を込めて「海は私にさまざまな繋がりをつくってくれた」と言います。
「だからこそ守っていきたい。『(ごみを)拾う心よりも捨てない心』というIVUSAの理念の通り、環境を意識した行動が当たり前の世の中を目指します。海ごみの8割は内陸の都市部から出ているということも多くの人に知ってもらわないといけません。新型コロナウイルスの問題で年内の活動はほぼ中止になってしまったけれど、オンラインでの発表や研修など出来ることはある。そしていつか再開されたら全国各地の清掃に行きます。大きな声を武器に(笑)、参加者と一緒に海のことを考える機会をつくり、かつて先輩が私を巻き込んでくれたように、私も大勢を巻き込んでいきたいです!」