頼むぞSEABIN! 綺麗な海へ着実な一歩
「あの綺麗だった海が、こんな有様に…。何とかしなくては!」
母親の実家の目の前にある港を20年ぶりに訪れた時のこと。数え切れないごみが浮かぶ様子に衝撃を受け、何かに衝き動かされるように行動を始めた東濱さん。陸と違い、なぜ海にはごみ回収業者がいないのか。どうしたら回収できるのかと自問しながら調査を続けること数年、ついに出会ったのが、「SEABIN」でした。
SEABIN は、直径約50cm、高さ約80cmの円筒で、直訳すると「海のごみ入れ」。ですがただのごみ箱ではありません。その働きはまるで海のルンバ(ロボット掃除機)!浮かべておけば、吸い込み口を上下に動かしながらせっせと浮遊ごみを飲み込み、海水は排出してごみだけ回収するという優れモノなのです。食品容器やタバコの吸殻はもちろん、水面に漂う油脂や汚染物質や約2mmのマイクロプラスチックまで回収でき、平均回収量は1基で1日約1.5kg、1年だと1/2tを超えます。これまでに、熊本県内の水俣市丸島漁港と宇城市松合漁港で実証実験を行い、丸島漁港では17日間稼働で総重量42.84kg、松合漁港では16日間で60.95kgのごみを回収しました。
「行政の方や漁師さんが深く関心を持ってくれました。SEABINがごみを吸い取る様子を見て、ごみが外海へ出る前に湾内で回収する重要性を分かっていただけたようです。また、長崎県五島市からオファーをいただいて、福江港のクリーンアップ作戦で3日間だけ設置したこともありました。その時に交流した島の高校生がとても感動してくれて、長崎県の環境シンポジウムでSEABINを利用した海ごみ回収について発表してくれたんです。若い世代にも想いや意義が伝わって、すごく嬉しかったですね。SEABINは、その効果が目で見て分かりやすいということも功を奏していると思います」
SEABINの知名度がじわじわ上がる中、新しいニーズも見えてきました。稲作農家から、「肥料の殻がプラスチックごみになるので何とかならないか」という相談が来たのです。肥料をコーティングしている樹脂の膜は分解に時間がかかり、中の肥料が溶け出た後に膜だけ残って海へ流出。それらが砕かれて、いずれはマイクロプラスチックに…。肥料を使わないわけにはいかず、農家には流出防止の術もない。そこでSEABINの出番!というわけです。
「従来型だと用水路では使えないので、ポンプの仕様を改良して、農家さんの為のSEABINを作っています。完成したら初の自社製品になりますね!来春の稲作シーズンに何とか間に合わせないと」
熊本市の江津湖でも実証実験を成功させ、2021年4月からは市の事業として本格稼働する見込みです。
「江津湖で運用が始まれば、港以外でのSEABIN設置は国内初。ごみが海まで来る前に回収する重要性も発信できます。開発中の農業用水路バージョンも含めて、いろんな場所に広がってほしいです」
今、世界で年間約800万tものプラスチックごみが海に流出しています(※)。環境省「海洋ごみをめぐる最近の動向」(平成30年9月)によると、そのうち日本の発生量は2~6万tだと推計されています。途方もない量ですが、東濱さんは諦めていません。
「海のプラごみを全て回収することは難しい。でも1%でも防ごう、自分にできることをやろうという気持ちを大切にしたいんです。SEABINはオーストラリアやヨーロッパを中心に39ヶ国で約860基が設置されていますが、アジアではまだ少なく、日本は江ノ島や熊本など4カ所だけ(2020年10月現在)。これから全国の漁港やマリーナに設置できれば、日本は世界有数の海ごみ回収量が多い国として認知されることになります。稼働中のSEABINを見た人が、自分もポイ捨てを止めよう、なるべくごみを減らそうって思ってくれる効果もきっと大きいと思いますよ。とにかく各地に増やしたい」
そして、どうしてもSEABINで綺麗にしたい海がある!と力説する東濱さん。それは起業のきっかけにもなった、母親のふるさとの四番漁港(熊本市西区)です。
「幼い頃にあの海に親しんでいたからこそ、今こうして海のために頑張れている。自分もやっぱり海に育てられたということですね。港への導入はハードルが高いけれど、いつか必ず実現させます!」
グローバルな視野の一方、超ローカルな海への想いが出発点だからこそ、東濱さんの情熱は燃え続けているのでしょう。健気にごみを吸い取り続けるSEABINの普及を通じて、海ごみ削減への地道な、でも確実なスモールステップを積み重ねていく覚悟です。
(※)Neufeld, L., et al. “The new plastics economy: rethinking the future of plastics.” World Economic Forum. 2016.