使命に燃えて、塩(えん)むすび!
「海の恵みを結晶にしてお届けするのが私の仕事です」
そう語るのは、千葉県九十九里の塩づくり職人の山路さん。九十九里浜の海水を使い、太陽や風、自然の力を借りながら作り上げる「山武の海の塩」は、粒が大きく、さくり、ふわりと甘みを感じさせるのが特徴です。
山路さんの塩づくりの手順は、次の通りです。
①潮汐を見極め、澄んでいる場所を選んで海水を汲んでくる。
②垂れ下げた魚網にひしゃくで海水をかけ、海風と日光で余分な水分を飛ばして塩分を濃縮させる。=流下式採鹹(さいかん)
③濃縮された海水を平釜に移し、薪を焚いて、丁寧に灰汁を取りながらじっくり煮詰める。=煎熬(ぜんごう)
④約4日煮詰めると塩の結晶が現れてくるので、すくいとる。
⑤すくった塩を天日干し。余計な水分を飛ばしたら出来上がり!
まさに自然との共同作業。約1tの海水から生み出される塩はたった20kgほどです。
「手間がかかる上に大量生産はできません。工程の中では特に平釜の薪の火加減が難しく、かつ重要なので、今でも緊張しますよ」
山武では戦後、塩田方式での塩づくりが盛んに行われていました。塩は薪や食糧と物々交換され、山間部の住民と浜の住民とを繋ぐ存在でもありましたが、燃料が手に入りやすくなるにつれ、もともと重労働だった塩づくりは徐々に廃れていったそうです。
その塩づくりを復活させようという機運が生まれたのが約10年前。地域の人や観光客に海の魅力を再認識してもらおう、海への注目を取り戻そう!という挑戦でした。
「塩田ではなく魚網を使う方法を採用して、平釜での炊き方は、以前の塩づくりを知る世代の皆さんに教わりました。昔の良さを生かしながら現代風にアレンジして手順を決め、試行錯誤して、品質が安定するまでは時間がかかりましたね。事業が始まった2014年は山武市の観光協会が運営しており塩づくり体験がメインでした。ところが出来た塩がとても美味しいと評判になり、商品化が決定。私は当初は観光協会職員として関わっていましたが、色んな経緯があって、プロジェクトを一人で引き継いで独立しました」
山武の塩が美味しい秘密は、こだわりの製法によって海のミネラルがそのまま閉じ込められていること。中でも特にカルシウムが多く、100g当たりの含有量が1,300mgというのは全国の有名産地で作られる塩と比べても圧倒的です。
「甘みが強いのはカルシウムのおかげですね。さらに味が尖らずまろやかなので料理やお菓子作りに使いやすく、羊羹やブッセ、パン、餃子などコラボ商品がどんどん増えています。海水は大潮の時が一番綺麗なので、出来る限りその日を狙って汲みます。月のリズムに合わせることで神秘的なパワーが増すような気がして・・。最近では神社のお清めの塩として使っていただくこともあるんですよ」
2019年4月、山路さんが海水を汲む海岸の本須賀海水浴場が、国際環境認証である「ブルーフラッグ 」を千葉県で初めて取得し、安心安全で美しい海岸であるというお墨付きを得ました。そして同年夏、山武の塩は商品パッケージをリニューアル。人と人とをむすぶ塩であって欲しいという想いを込めて、「塩(えん)むすび」と大きく記しました。
「私たちの海にブルーフラッグ が掲げられ、海への想いはますます強まりました。綺麗な海あってこその塩。素晴らしい環境も塩づくりも100年先まで続くように、私は塩を通して海の魅力を発信していきます。正直とても大変で試練は続くんですが(笑)、待ってくれているお客さんや助けてくださる皆さん、塩がむすんでくれたご縁が宝物。私がやめるわけにはいかないと覚悟を決めています」