“獲る人よし、食べる人よし、社会よし”を目指して
祖父母も父親も水産会社を経営し、「僕は水産業界に育てていただいた」という若者が17歳で単身渡米してビジネスを学び、「この戦略なら日本の水産業をより良くできる!」と閃いて22歳で起業。まるでブーメランのように、志を果たしにふるさとへ帰ってきたチャレンジャー、それが井口剛志さんです。
その閃きのきっかけになったのは、大学3年生の授業で学んだプラットフォーム戦略でした。
「簡単に言うと、売る側と買う側をオンラインで繋ぎ、互いの情報を一元化することで取引をスムーズにする仕組みです。日本の水産業界は非効率な部分が多いと以前から知っていました。その複雑すぎる流通網に新しい選択肢を提案することで、業界全体の構造を変えたい。そう考えて会社を創り、独自の水産物流通システム「マリニティ」の開発に着手しました」
マリニティとは井口さんの造語で、元は「Marine community」という海洋生物学の用語。漁師や仲卸、市場、漁協など水産業に関わるすべての人たちが豊かになれる海のコミュニティを作りたいという願いを込めて名付けました。
その開発期間中の売上確保のため、まずは寿司ネタの卸売事業を開始。将来的にマリニティ流通の「買う側」になる取引先を徐々に増やし、順調に進み始めていたところで、まさかの新型コロナウイルスの影響が影を落とします…。
外食産業の需要が冷え込む逆境の中、次の一手として始めたのが、飲食店との協業による「うみのうち事業」です。
「ポイントは、規格外食材として流通に乗らない『未利用魚』を使うこと。今年5月にクラウドファンディングで始めた「うみのうち食堂」では、規格外魚や新型コロナの影響で出荷出来ずにいる魚などを加工して販売しています。ハンマーヘッドシャークや、背鰭に毒があるアイゴなども、上手に加工すれば美味しく食べられるんですよ!魅力的な魚料理を提案して魚食の普及にも貢献したいと思っています」
これまで棄てられていた未利用魚が売れるとなれば、限りある海洋資源を有効活用でき、生産者である漁師の所得向上につながります。さらに環境保全面でもメリットは大きく、海洋廃棄物が減って汚染が緩和されるだけでなく、海の生態系の回復にも役立つといいます。
「海の食物連鎖がうまく回るためには、大型魚の排泄物に含まれる栄養分が重要なのですが、人気の大型魚は乱獲されがちです。これからは大型魚に偏らず、従来の未利用魚もバランス良く獲って活かしていくほうが、豊かな生態系と資源の維持に繋がると考えています」
井口さんが目指すのは、獲る人よし・食べる人よし・社会よしという「三方よし」の世界。流通改革で水産業界の仕組みを最適化し、魚をナリワイにする人々を救う。安心安全な魚を安く美味しく食べられて、消費者もハッピー。未利用魚に光を当てることで、海の生態系を健やかに。
「僕たちの小さな取り組みが良いスパイラルを生み出し、全国の海へ、地球まるごと全世界の海へと広がっていけばいいな!」
優れたビジネスモデルとテクノロジーを駆使して業界の風雲児たりえるか。グローバルな目線で水産業の未来に人生を賭け始めた井口さんの活躍から目が離せません。