“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

石川

海は生命の源。なんとしても守りたい。

大麦ストローで脱プラ!使命に燃える情熱ウーマン

蒲田 ちか

CHIKA KAMATA

PROFILE
生年月日
1970年6月25日
主な活動エリア
商品の製造、清掃活動は市内。講演等は全国どこへでも
株式会社ロータスコンセプト代表取締役社長。石川県金沢市出身。
エシカルな(環境や社会に配慮された)チョコレートや大麦ストローの製造・販売など社会貢献型ビジネスを手がける。2018年、(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会が主催するソーシャルプロダクツ・アワードで「love lotus Bean to Bar&Rawチョコレート」が国際部門の大賞を受賞。2020年には「大麦ストロー」が同アワードのソーシャルプロダクツ賞を受賞。

1本の大麦ストローから“気づき”と愛が世界へ広がる!と信じてる

プラスチック製ストローが鼻に刺さって苦しむウミガメ。その姿を記録した動画は、インターネットを通じて世界に発信され、海を漂うプラスチックごみ、いわゆる「プラごみ」の問題の深刻さを私たちに突きつけました。

「あのウミガメの姿を見た時、人間の勝手な行動のせいで海の生き物が大変なことになっていると知ってショックでした。同時に、神さまが私に『お前、動け!』と言ってる声が聞こえた気がして、何とか解決できんやろうかと考え始めたのが、大麦ストローを考案したきっかけです」

そう語るのは、蒲田ちかさん。プラごみにならないどころかそもそもゴミにならない、土から生まれて土へ還る“循環型”の大麦ストローを世に出し、その普及を通じて世界をより良く変えて行こうと挑戦を続けている女性です。

(↑)メッセージ性が高いパッケージ。箱の裏には肥料として土へ還す方法も記載

環境破壊や児童労働など社会が抱える課題に対して「傍観者でいたくない!」と、自分にできることを探して行動するのが蒲田さんのポリシー。そんな生き方を重ねる中から、人や地球が持続的であるために役立つ優れた商品を生み出しています。

2019年に販売開始した大麦ストロー、そしてそれ以前にも、2017年から手がけている無農薬かつ児童労働による搾取のないベトナム産カカオ豆を使ったチョコレートが高く評価され、「ソーシャルプロダクツ・アワード」で二度も入賞しました。

「情熱のままに動いていたら、点と点が繋がるようにいろんな出会いに恵まれて、想いが形になっていきました。でもこれまでには長い試練の物語がありまして…ど根性と工夫で生き抜いてきた感じ(笑)。私はよく“協調性がある一匹狼”って言われるんですけど、波瀾万丈の中でタフさやしぶとさが身についたようです」

石川県の内灘海岸の近くに暮らし、主婦業を楽しんでいた蒲田さんの人生が急展開したのは、30代前半。
「若い頃から気になっていたベトナムに実際に行ってみたらスイッチが入った!」と、2004年にベトナム雑貨のインターネット通販を意気揚々とスタート。…したものの、2年近くも赤字。打開策として大好きな蓮(ロータス)に特化してみようと、蓮にまつわる雑貨の販売をネットとリアルで展開。すると、国内外の蓮雑貨を扱う店は当時珍しかったこともあり、全国の蓮ファンから人気を集めました。…が、順調だったのも束の間、諸般の事情で閉店。それでも諦めず、起死回生を狙って2015年に法人化しました。

「体調崩すわ借金かさむわで本当に苦しかったんですけど、この頃から、自分にしかできないことにこだわりたいという気持ちが強くなりました。当時はまだ海に関わる仕事はしていませんが、私の中では重要な伏線。蓮の花のようでありたいと強く願うようになったのもこの頃です。泥から顔をだしてすっくと伸び、風にしなって折れそうでも折れない。しなやかで強い生き方ですね」

(↑)蒲田さんが心ひかれる蓮の花(※蒲田さん撮影)

肝が据わった矢先、新たな出会いを引き寄せました。福島県会津若松市で保育施設を運営するNPO法人「Lotus(ロータス)」の代表、山口巴さんと、蓮がきっかけで意気投合。それをきっかけに、心の奥深くにふつふつと燃えていた「子どもたちの助けになることをしたい」という想いに気づいた蒲田さんは、Lotusと協働し、児童養護施設の子どもたちに木のおもちゃで遊んでもらう“木育キャラバン”を行うプロジェクトを2016年に発足しました。
この木育活動を支えるため、自社の新規事業のアイデアを模索する中で、ベトナムに児童労働による搾取のない無農薬カカオ農園があるという情報が偶然舞い込んできたのです。

「実はこの時も『あなた、次はチョコレートだよ!』って神さまの声が聞こえて(笑)」、直感を信じた蒲田さんはチョコレート製造を決意。2017年初頭からクラウドファンディングで資金を集めて試作を開始し、商品化して同年9月にはネットで販売。エシカルで美味しいチョコレートは一躍注目を浴び、早くも2018年3月にはソーシャルプロダクツ・アワードで大賞に選ばれました。

受賞を機に、企業としてこれからどうあるべきかを自ら問い直していたちょうどその時に目にしたのが、冒頭のウミガメの映像です。

「私がやらなくて誰がやる!っていうくらいの使命感がわきました。もともと海は大好きで、何としても守りたい大切な存在です。そういう自分の気持ちに気づいてしまったら、もう素通りなんてできない。テーマがころころ変わって唐突だと思いますか?でも私の中では自然な流れなんです。ベトナム、蓮、チョコレート、そして大麦ストロー。すべて、何かの“お導き”です」

ストローに加工する大麦を提供しているのは、大麦の産地として有名な石川県小松市にある農業法人、嵐農産です。通常、大麦を刈り取った後の茎は細かく刻んで畑の肥やしにしますが、その茎を長い状態で残したものがストローになります。
嵐農産は、海を守るために自分が出来ることをしたいという蒲田さんの想いに共感し、大麦の茎を無料で提供してくれています。

(↑)2018年5月、蒲田さんにとっては初めての刈り取り作業

刈り取った大麦はビニールハウスで2週間ほど乾燥。その後、カットして皮をむき、煮沸消毒して再び乾燥させます。その作業を担当するのは、同市の社会福祉法人こまつ育成会をはじめとする3つの福祉施設に入所している人達です。大麦の生産とストローの加工、パッケージングと保管もすべて小松市内で完結させることで、商品移動の際のCO2排出量を最も少なく、環境負荷を最小限にしているということも、蒲田さんのこだわりです。

保管時のカビ対策や茎が折れない工夫など試行錯誤を繰り返し、ようやく完成したストローは、2019年の7月に販売スタート。観光客に人気が高い「金沢 彩の庭ホテル」で採用されたのを皮切りに、県内の飲食店にじわじわと広がり、今では東京など県外でも取り扱い店が増えています。

そもそも大麦は英語でStraw(ストロー)。ストローという道具の語源が大麦であることからも分かるように、プラスチック製品が世界に蔓延する前は、天然素材の麦わらがストローとして使われていました。大麦ストローへの転換は、昔の知恵ある暮らしを見直すという側面もあるのです。

「実はそんなこと全然知らなくて。試作品を眺めながらあれこれ考えている私の姿を見た、向かいのおじさんや隣のおばあちゃんが、『懐かしいもの持ってるね〜』とか『子どもの頃はそれでシャボン玉を作ったよ』とか教えてくれて、日本でも昔は大麦がストローとして使われていたんだってそのとき初めて分かりました。結局“原点回帰”だったんですね」

また、大麦ストローの良い点は、身近で小さな商品であるがゆえに個々人が脱プラへの転換を意識しやすいということ。
毎年推定800万トンものプラごみが世界中の海へ流れ出ているとの研究報告があり(米サイエンス誌に2015年掲載)、その量から見るとプラ製ストローは微々たるもので、全体の0.1%にも満たないと言われています。仮にすべてが大麦ストローに置き換わったとしても、劇的な改善につながるわけではありません。

「それでも、大麦ストローを目にした人は海洋プラごみ問題に気づきます。気づいた人は、普段の生活の中でも脱プラを意識するようになるかもしれない。いや、なってほしい。一人ひとりがポジティブに考えて小さな行動を変えていくことでしか、世界は変えられないんですから。そんな気づきを促すきっかけとして、大麦ストローを日本全国へ、そして海外へも広めていきたい」

2020年、ソーシャルプロダクツ・アワードでの二度目の受賞がアサヒグループホールディングスの目にとまり、同社が東北復興支援のために取り組む「希望の大麦プロジェクト」の一環として、宮城県東松島市の沿岸部(津波被災地)で栽培した大麦を使って麦わらストローを作ることが決定しました。蒲田さんは、その製造の監修という形で協力しています。

大麦ストローの知名度が上がるにつれ、刈り取りを手伝いたいと名乗りをあげてくれる人も増えているそうです。また蒲田さん自身、大麦ストローの発信をするうちに環境意識がどんどん高まり、地元の河川愛護団体による清掃活動にも参加するようになりました。

(↑)「アーバントラウト犀川を見守る会」として月に一度は清掃活動

ベトナム雑貨に蓮雑貨、子どもを守るチョコレート、そして海を守る大麦ストロー。
「いつも神さまに蹴っ飛ばされながら」と笑う蒲田さんの、自分の信念と情熱に正直に行動し多くの人を巻き込んでいく姿は、まさに熱源です。

「こんな私でも、こんな小さな会社でも出来ることがあるんだって、人生をかけて伝えていきます。どんな逆境だってできることは必ずあると信じること。とにかく動けば何かが変わる。私は常に魂を燃やして生きていたい」

1本の素朴な大麦ストローから、「あなたはどう動きますか?」という蒲田さんの問いかけが聞こえるようです。

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

「実は母親もぶっ飛んでまして」と蒲田さん。世界の広さを知れ!というお母さんのススメで、二十歳の頃に初の海外で55日間のヨーロッパ一人旅へ。道中のパリでベトナム料理を知ったことが、蒲田さんの人生におけるベトナムとの最初の出会いだったとか。人生、何がきっかけでどう転ぶか分かりませんね〜。ちなみにベトナムの国花は「蓮」。これもまたミラクル。

自分を海の生き物に例えると?

「めっちゃ小魚!ちょろちょろ動いて、動き続けて…あ、『性格マグロの小魚』です。止まったら死ぬわ、私」

人生の荒波を乗り越えてきたタフな生き様は確かに、長い旅路を高速で泳ぎ続けるマグロのよう。でもどちらかというと、「自分のことを小魚だと思っている本マグロ」のような気もしますが。