川と共に生きるからこそ想う、山のこと、海のこと
岐阜県の長良川は水の美しさで知られ、高知県の四万十川、静岡県の柿田川と並び称される日本三大清流の一つです。県内を南へ縦断する長良川の源流は、郡上市の大日ヶ岳。その郡上市に生まれ育ち、伝統の「郡上釣り」という釣技を継承するのが白滝さんです。
「父親も祖父も、長良川のアユを釣って生計を立てる『職漁師』でした。父に教わって最初にアマゴを釣ったのが6歳。それ以来、渓流釣りが大好きになり、10歳でアユ釣りも始めました。郡上にはアユ文化が根付いていて、釣りが上手なことがステイタス。とにかく子どもの頃から釣りにハマっていましたね」
白滝さんが職員として38年間勤務し、現在は副組合長を務めている郡上漁協は、長良川という恵まれた漁場を守るため様々な取り組みを続けています。稚アユの放流や、釣り場環境の整備。そして特徴的なのは、漁協でありながら、森を育てるための植樹を行っていることです。
「戦後の植林政策で、天然の広葉樹を伐採してスギやヒノキなどの針葉樹ばかりがどんどん植えられました。しかし針葉樹では広葉樹のような腐葉土ができないので、山がやせてしまった。本来ならば雨が降ったら山の腐葉土に含まれる養分が川に流れ込み、川や海のプランクトンのエサとなって豊かな漁場を育むはずなのに、山がやせてしまっては元も子もない。そこで、漁場である川や海をより良くするために、まずは山の力を取り戻そう!と考えて、落葉広葉樹を増やす活動を始めました」
そのような想いから、郡上漁協主催の「長良川源流の森育成事業」が2010年にスタート。趣旨に共感して植樹に参加する人が年々増え、現在も継続しています。
「私たちの植樹のスローガンは『山から川へ、そして海へ』です。川と海との連続性を教えてくれる存在はアユ。アユは秋に川で生まれて海へ行き、栄養豊富で川より温かい冬の海を揺りかごとして過ごす。春に川の水が温むと遡上し、夏に川で苔を食べて大きく育つ。その夏のアユを私たちが獲るわけです。アユは川の魚ですが、いい海がないと育たないんですよ。海、川、山。水産資源の管理のために生態系の中の“水の連続”を考える大切さを漁協として訴えていきたい。植樹は年に1回ですし効果がすぐ出るものではないけれど、漁業者が山に木を植えるということの意義を伝えたいのです」
“清流の女王”とも呼ばれるアユは、長良川の豊かさの象徴でもあります。その『清流長良川の鮎』は、2015年に世界農業遺産に認定されました。世界農業遺産は、アユだけでなく長良川の美しさや生態系、水を育む源流の森、流域に住む人々の水と共に暮らす伝統文化やなりわいなどを含んで認定されています。
「長良川は手付かずの自然の中を流れているわけではなく、周りにびっしりと人の営みがある。それでもこの豊かさと清らかさを保っているという点が凄いんです。つまり地域のみんなが川を大切にしてきたということであり、そういう地域で川に携わる仕事をずっと続けてこられたことは本当に有り難い。私は幸い、戦前から伝わる郡上釣りの技術を受け継ぐことができました。この技術は勿論ですが、それだけではなく、川を大切にする心や生き方そのものを後世に伝え、若い世代を育てていかなければと強く思います」
緑の山々や清洌な川の流れ、そして青い海。その“ひとつらなりの自然”への深い感謝と恩返し。この愛を原動力に、白滝さんの「川づくり・人づくり」は続きます。