“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

広島

海は、ふるさと。

地域に根ざすコーディネーター

山田 賢一

KENICHI YAMADA

PROFILE
生年月日
1948年3月27日
主な活動エリア
呉市安浦町内
安浦町まちづくり協議会副会長。広島県呉市出身。
平成20年度から呉市まちづくりサポーター(任命第1号)。安浦町観光協会の専務理事。安浦町公衆衛生推進協議会では事業企画部長を務め、町内の各団体と連携して様々な環境保全や環境教育など未来を見据えた草の根の活動を続けている。

環境保全はまちづくり。自然を守る気持ちは、地域を強くする

広島県呉市の東端にある安浦町は、全面積の8割近くを山林が占め、森の栄養が注ぎ込む三津口湾には中四国エリア最大級のアマモ場があります。また、ハクセンシオマネキ(河口の干潟に生息するカニ)やカワツルモ(汽水域に棲む水性植物)といった絶滅危惧種が生息する、豊かな自然が残る町としても知られています。

(↑)安芸灘の三津口湾には約200 haの大きなアマモ場があり、生物多様性の観点からも重要な海域

そんな安浦町で、各団体や事業所、学校などの連携を図るコーディネーターとして活躍しているのが山田さん。
コミュニティの力を最大限に活かし、環境問題など町全体の課題解決に率先して取り組んでいます。

(↑)広島県公衆衛生大会にて、安浦町の活動報告をする山田さん

山田さんは元々生命保険会社の社員で、関東や九州、四国と全国各地で働いた後、50代でふるさとへUターンしました。

「親も転勤族だったので私は中学から安浦町を出ており、戻ったのは本当に久しぶりでしたから浦島太郎状態で(笑)、退職した後どうしようかと考えていたときに、恩師の紹介でまちづくりの仕事に関わり始めました。そこで、地域の課題を知るために高齢者と話していたら、『最近は雨の降り方が違う』とか『スコールみたいな雨が増えて怖い』という声が多く聞かれました。暮らしの中で、町の皆さんが自然環境の変化を実感していることが分かったんです。やっぱりキーワードは温暖化だなと。私の中で明確な問題意識が生まれました」

2008年5月に呉市まちづくりサポーターに就任して以来、活動が多岐に渡る中でも特に力を入れてきたのは環境対策です。
安浦町公衆衛生推進協議会や安浦地区自治会連合会、安浦町まちづくり協議会、安浦漁業協同組合、町内の小中学校などを繋ぎ、海岸清掃や環境教育を実施してきました。

(↑)生徒らと取り組んだ海岸清掃の様子

川の生き物を観察して環境の変化を学ぶ「水辺教室」や、三津口湾の海上で行う「水産教室」は、小学校の総合学習の授業にも組み込まれ、子どもたちが安浦町の自然環境の素晴らしさに気づきくきっかけになっています。

「水産教室は、船に乗って海に出て、牡蠣筏を見て牡蠣養殖を学んだり、水中めがねでアマモを観察したりする貴重な体験学習です。これは安浦町の牡蠣養殖業者である山根水産さんの協力のおかげで実現しています。地域の人たちが色々と動いてくれるから、連携し合えば出来ることも広がるし、活動を続けていける。有り難いことです」

(↑)水産教室の様子。牡蠣養殖の現場を実際に見る

(↑)水産教室では海ごみ問題についての説明も行う

2018年6月末から7月にかけての西日本豪雨で多大な被害を受けた安浦町は、現在も復旧作業が終わっていない地区があります。生き物への影響も甚大で、例えば田んぼの用水路に棲む希少な水性生物カワツルモは、洪水の土砂にのまれてまさに絶滅寸前だと言います。

「温暖化で生態系が変化したり、漁獲高が変化したり、毎年のように豪雨災害が起こったり…悲観的に考えてしまいがちなことばかりですが、体験学習で子どもたちに伝えたいのは、自分たちの身の回りの自然環境は変化しとるんだから、ちゃんと見ていかないといかんよー!ということです。この安浦町はまだまだ自然が豊かで、陸のホタルも海のホタル(※ウミホタルという甲殻類)もたくさんいる。まずは、こういう町に生まれたことを誇りに思いなさいと。その上で自然の変化を受け入れて、守れるものは守っていく。そんな想いを育んでほしいです」

(↑)海の宝石とも称されるウミホタル。夜の観察会で見に行くことも

安浦町のまちづくりという視点からも、子どもたちへの環境教育をとても大切に考えている山田さん。
水産教室や清掃活動、町を流れる野呂川の自然観察会や絶滅危惧種についての学習会など、地元っ子たちとさまざまな接点をもちながら、優しく厳しいまなざしで見守っています。

「自然を守ることを、次世代の子どものためにやってやったって言う大人が多いんだけど、それは違うと思います。子どもと一緒に学びながら守っていく、という考えがいいんじゃないかな。子どもも、やってもらって当たり前にならずに、『ふるさとのために自分には何ができるか』を子どもなりに考えるべき。おばあちゃんと草取りするとか、おじいちゃんの手伝いするとか何でもいいから、地域の中で自分が出来ることを考えながら暮らしていく。そうやって育った子たちは、いつか町を出て行くことがあっても将来はこの町に帰ってきて町を守ってくれると信じています」

(↑)川の生き物を観察する水辺教室の様子

海や川、そこに棲む生き物、身近な自然への愛情は地域社会の持続可能性をも高める。
環境保全とまちづくりは一体であることを、山田さんは教えてくれています。

「地域を、ふるさとを大事にしようっていう気持ちは、海を守ろうという想いと重なるよね。だって海はふるさとなんですから」

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

「絶滅危惧種案内人」と呼ばれることもある山田さん。「豪雨災害の影響でテイレギも絶滅しかけ。食べるとピリッとする水草で、昔はたくさん採れていたんだけどね」。ハクセンシオマネキやリュウノヒゲモなど比較的有名なものから超マニアックなものまで、本当によくご存じです。その知識の源はやっぱり、ふるさと愛。

自分を海の生き物に例えると?

「ウミホタル。普段は静かに潜行して目立たないようにしよるけど、刺激があると光り出す。私もそ〜っと潜っていたいんやけどなかなかそうさせてもらえないというか…みんながわ〜わ〜言うてくるから(笑)」

これからも熱く光って、地域を明るく照らしてください!