想いを伝えてファンづくり。椹野川の環境は“人つなぎ”で守る
船﨑さんは自分のことを、「ヒト・モノ・カネを繋ぐファンドレイザー」だと言います。
ファンドレイザーとは、NPOや一般社団法人など社会貢献を目的とした非営利団体の資金調達(=ファンドレイジング)をする仕事です。つまり、団体のビジョンや想いを伝えることで共感してくれる人を増やし、さまざまな方法で事業に必要なお金を集めるプロフェッショナル。社会を良くしようと頑張る人と、それを応援したい人とを繋げるプロとも言えます。
船﨑さんは、山口市を流れる椹野川(ふしのがわ)流域や山口湾の干潟の環境保全に取り組む団体に深く関わり、調査や干潟の耕耘といった現場で汗を流す作業に参加するのに加えて、ファンドレイザーとして資金や人材を確保するという重要な役割を担っています。
(↑)パネルディスカッション等でコーディネーターを務めることも多い船﨑さん
椹野川は、山口市を南北に流れて山口湾に注ぐ川で、河口には300haを超える干潟が広がっています。その干潟は環境省が指定する「日本の重要湿地500」にも選ばれ、絶滅危惧種であるカブトガニやクロツラヘラサギなどの生息場としても知られます。
「椹野川は支流がたくさんあって、それぞれの地域で川を綺麗に保つ奉仕活動が根付いています。例えば、一の坂川は市街地を流れる川だけれど今もゲンジホタルがたくさんいる。県庁のそばにホタルがいるなんて全国でも稀なことだと思うんですよ。この環境を守り続けてくれている人たちがいるということですね」
椹野川の上・中・下流域の住民が連携して保全活動をするための仕組みづくりに、約20年前から取り組んでいる船﨑さんですが、意外にも「実はもともと環境というテーマには疎くて…」と明かします。
干潟を含む椹野川流域保全に関わるようになったのは、やまぐち県民活動支援センターの初代センター長を務めていた時のこと。県が「やまぐちの豊かな流域づくり構想(椹野川モデル)」を策定するのにあたり、策定委員の一人として参加したのがきっかけです。
「県職員さんに声をかけていただいて、私もチャレンジしてみようと。山口大学や農協、森林組合や漁協など多様な立場の人が集まって、構想をまとめるために知恵をしぼりました。調査したり視察にいったり、『源流から河口まで』すなわち森→川→海の繋がりについて学びを深めることができて、楽しく貴重な経験でした」
この構想策定が契機となって2003年6月に設立されたのが、船﨑さんが理事・ファンドレイザーを務める椹野川流域連携促進協議会です。
さらに2004年8月には椹野川河口域・干潟自然再生協議会が発足し、住民、学識者、漁協や森林組合、環境保全団体など多様な主体が協働していく体制が整いました。
(↑)地域の魅力を伝える流域マップを作成。右端が船﨑さん
椹野川モデルの活動は、地域通貨「フシノ」を流通させることでボランティアの参加を促す仕組みが高く評価され、2005年度に国土交通大臣表彰「手づくり郷土(ふるさと)賞」(地域活動部門)を受賞。
その後も、上流域では植林や下刈りといった森林整備や稚アユ放流、中流域では河川清掃やアユ産卵場の造成、下流域では海岸清掃、干潟の耕耘やアサリ防護網設置、野鳥モニタリング、環境学習など、広域的に様々なアプローチが継続されています。
「もう15年以上も続いている干潟のアサリ再生活動は、私も参加しています。漁業権が設定されている干潟では、本来は漁協以外の団体が活動することはできないのですが、ここでは漁協との協働がうまくいったことで住民参加が実現しています。具体的には、干潟を掘り返してやわらかくしたところに青くて目の細かい防護網をかけ、アサリが天敵のナルトビエイに食べられるのを防ぐという方法です。活動時、450名を超える住民がいることもあり、干潟を研究している大学生の参加も多いですね。お陰様でアサリの漁獲は復活傾向にあり、成果が目に見えることで、皆さんの活動継続の意欲にも繋がっています」
(↑)干潟を耕耘する様子
(↑)干潟耕耘後、参加者全員で記念写真
椹野川流域連携促進協議会が主催する環境イベントは回数を増し、参加者も年々増加。活動の担い手や資金を確保するために「ふしの干潟ファンクラブ」及び「ふしの干潟いきもの募金」(2018年〜)も創設しました。
企業への働きかけを続けたことで、これまでにトヨタやANA、伊藤園、積水ハウス、あいおいニッセイ同和損保といった複数の民間企業から、助成や支援を得ることに成功しています。
こうした広がりと長年の継続が実を結び、同協議会は2019年度にも「手づくり郷土賞(大賞部門)」で二度目の入賞を果たしました。
(↑)椹野川の活動に関わる同志らと記念撮影。前列左から二人目が船﨑さん
「活動を続けるには、当事者どうしをがっちり繋ぐ、そしてファンが繋がり続けるための場づくりがとても大切です。私はもともとファシリテーションやマーケティングが得意でしたが、これから先はファンドレイジングも絶対必要だと思い、2014年に日本ファンドレイジング協会の「認定ファンドレイザー」の資格を取りました。ただ資金を集めるだけではなくて、情報発信や営業、マーケティング調査、寄付付き商品の企画販売、支援してくれるファンとの関係づくり、子どもたちへの社会貢献教育など、いろんな切り口からのアプローチを考えるのは楽しいし、やりがいも大きいです」
(↑)小学生のワークショップで、下関市角島の「青海苔羊羹」オリジナル包装紙を作ったことも
女性起業家として様々な分野で活躍する船﨑さんですが、椹野川の環境保全はこれからも大きなテーマです。
自身の目標に掲げているのは、求心力のあるリーダーの育成をサポートすること。そして、企業と市民団体、行政、大学などを巻き込んで「SDGsを話し合う場づくり」をしていくことです。
「SDGsについては今は企業が先行しているように感じますが、これからは各主体がゆるやかに連携して同じ方向へ進んでいけるよう、共感し合う場が必要です。仲間を増やしていく方法は色々あるけれど、大切なのは、話し合って、やりがいや活動の楽しさを言葉で伝えていくこと。ファンドレイズって小難しい言葉で言ってますけど(笑)、要は、ふるさとの森・川・海を守りたいという想いを言霊(ことだま)にのせて、輪を広げていくということです」
コロナ禍で、人どうしの繋がり方がどんどん変化・多様化していく中、船﨑さんの巧みなコミュニケーションスキル、そして熱い言霊から生じる「巻き込み力」は、ますます必要とされそうです。