“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

愛媛

海は、楽しい思い出をつくる場所。

使命に燃える、ごみ拾いの鬼

岩田 功次

KOJI IWATA

PROFILE
生年月日
1961年5月27日
主な活動エリア
瀬戸内海全域
一般社団法人E.Cオーシャンズ代表理事。愛媛県八幡浜市出身。
2016年、愛媛近海の無人島や船でしか行けない浜辺に漂着した海ごみの清掃・回収を開始。その活動を継続していくため、秘境でのごみ拾いや調査を専門とする会社、E.Cオーシャンズを2018年に設立。日々の清掃を続けながら、知られざる海ごみの現状を精力的に発信している。本業は株式会社八代サイン工芸の代表取締役社長。

「みんなが知らない浜辺でごみがたまり、生物が死んでゆく。そんな社会を変えたい」

「ワシ、この2年間で約20tの海ごみを拾ってるんですよ。船のガソリン代がかかるし、2000万以上のお金をつぎ込んどる」

…思わず耳を疑う、桁違いの数字。
愛媛近海を中心とした瀬戸内海で、陸路では行けない無人島や浜辺、いわゆる“秘境”に流れ着いた大量のごみを、自前の船で回収する活動に心血を注ぐ男性。人呼んで“ごみ拾いの鬼”。それが岩田さんです。

岩田さんは20代の頃から環境保全の意識が高く、身近な海を清掃したり野鳥を守る活動をしたりと、ふるさとの豊かな自然に親しんできました。しかし2016年、愛媛県佐田岬半島のとある浜辺で人知れずたまり続ける大量のごみを発見し、想像を絶する海ごみ汚染の実態に大ショック。
「こんなごみを未来の子どもたちに残すわけにはいかない!」という強烈な想いが噴き上がり、あえて人が行きにくい秘境を中心に、本格的な海ごみ清掃に全力を注ぎ始めました。

「ただ、秘境でのごみ拾いは臭いし汚いし非常に過酷。船や2tトラックを使うから費用もかさむ。足場は悪いわマムシがいるわ、常に危険と隣り合わせ。これはもう、ボランティアでやる域を超えてるな…と考えて、これからずっと活動を継続していくために事業化と組織化をしていこうと決めました。2年前に立ち上げた会社の名前、『E.Cオーシャンズ』の『E』はEarth(地球)、『C』はClean(清掃)。ワシらは地球を綺麗にするチームなんだ!という志で取り組んどるんですよ」

2020年度は、トヨタ環境活動支援プロジェクトの助成を得て瀬戸内海全域の漂着ごみ調査を実施しており、岩田さんはこれまでに、ごみで埋め尽くされた浜を約500カ所も確認。愛媛県のある瀬戸内西部では約300カ所の浜を清掃し、そのうち約70カ所は船でしか行けない場所でした。

愛媛でも特に、宇和海に面した南予地方は複雑な入り江が続くリアス式海岸であるため、漂着ごみがたまりやすい傾向があります。また、E.Cオーシャンズのダイバーによる調査で、海底にごみが山積みになっていることも分かっています。

「佐田岬半島周辺は瀬戸内海の出入り口で、一年の中でも特に12月〜4月は北西の季節風の影響で大量のごみが流れ着き、たまる。これまでに見たごみ浜の中で最悪だと思っている場所は、佐田岬半島の御所ケ浜です。最初にショックを受けた浜も実はここ。アカウミガメが死んでいるのを見つけて、胸が撃ち抜かれる思いだった。『助けてよ〜』って言ってる声が聞こえたような気がしました」

その御所ケ浜で岩田さんは、「瀬戸内海年末大掃除」と銘打つ大規模なごみ拾いを実施しています。
通常E.Cオーシャンズは約30名の会員のみで活動していますが、この年末大掃除はボランティアの参加者を全国から募集します。ただし御所ヶ浜は、徒歩で行けるもののほぼ人が訪れない場所で、分厚く積もった海ごみの山は圧倒的。期間は近海でのごみ視察クルージングも含めて4日間で、うち2日間は一日中ごみ拾い。軽い気持ちで参加したら後悔すること間違いなしの、ウルトラハードな“鬼ごみ拾い”です。

「2020年の年末大掃除では、2日間で2tトラック28台分のごみを拾いました。活動が終わった後、港に集めて積んだごみを処分場へ運ぶ作業は、ワシと奥さんだけで4日間かけてやったよ。実はうちの奥さんが被害者1号というか(笑)、ずっと一緒に頑張ってくれてるんです」

「調査して分かったことだけど、瀬戸内海の海ごみは99.9%、日本人のごみ。情けないことです。『ごみはごみ箱へ』という当たり前のことが出来ない世の中の大人たちの意識改革を、まずはしないといけない」

そう思うからこそ、「うち(E.Cオーシャンズ)の活動では子どもたちにごみを拾わせたくないんですよ」と漏らす岩田さん。
漂着ごみは大人たちの責任であって、汚いごみ山を子ども達に見せたくない、海を嫌いになってほしくない。E.Cオーシャンズが大人だけで活動しているのは、そんな理由からだそうです。

少しでも地域住民の意識を変えようと、調査結果や活動内容をメディアに情報提供してテレビや新聞で取り上げてもらったり、環境フォーラムを主催したりして、積極的な啓発・発信を続けてきたことで、協力してくれる地元民や自治体、協賛企業も増えてきました。
最近では愛媛県だけではなく、広島県、岡山県にも活発に活動する会員がでてきたと言います。

「たとえ志はあっても、こんな本格的な清掃活動を少人数で継続していくことは難しい。だからまずは中四国で組織の基盤をつくり、将来的には全国組織にしていきたいと思っています。仲間を増やすだけではなくて、仲間たちがこの活動に専念しながら生活もちゃんとしていけるような仕組みを作ることが必要です。そのための発信と提言、行政への働きかけを続けます。目指すのは、大人が仕事として“ごみ拾いを続けられる社会”ですよ!」

意識改革と仕組みづくり。そして多くの人にごみ拾いに参加してもらうためには、安全対策の装備や専用の道具も必要だと説く岩田さん。
例えば大きなプラスチックごみを粉砕する機械や、発泡スチロールを溶かせる機械、船上に持ち込める小型の機械など、マリン関連の企業と連携して特殊な道具を開発することも視野に入れているそうです。その一方で、マイクロプラスチックのごみを掬い取れる網の開発にも着手しており、完成した暁には全国に普及させたいと意気込んでいます。

「ワシみたいにがむしゃらなのは絶滅危惧種かもしれんけど(笑)、でもスーパーボランティアのおっちゃん(※尾畠春夫さん)が80歳超えてあんなに頑張っとるんやから、ワシもまだまだ頑張るぞ!って思ってます。同時に、後に続いてくれる仲間たちのための道も作らんと!」

秘境を攻める、強くて優しい“ごみ拾いの鬼”。
その闘志は勢いを増し、ますます燃え広がる予感大です。

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

サインデザイン業界でも長く活躍する岩田さん。日本サインデザイン協会の理事を14年ほど務めていましたが、あるとき「ごみ拾いしたいから理事を辞める!」と宣言して周りをザワつかせたとか…。
現在も、本業のほうはかなりほったらかし気味。スイッチが入ったら一心不乱、ごみ拾いに全集中の岩田さんです。

自分を海の生き物に例えると?

「例えるというか…成り代わって代弁してやりたいもの。死んだアカウミガメですね。何も言わない死体だけど、『どうにかしてよ!』って訴えかけられた気がしてます」

岩田さんを衝き動かすのは、自然界から受け取ったメッセージ。
アカウミガメは、使命を伝えてくれる使者だったんですね。