海のゆりかご、アマモの役割を知ってほしい
海草は、ワカメやコンブなどの藻類とは違い、海に生える種子植物。その代表格がアマモで、アマモが草原のように群生している場所をアマモ場(ば)といいます。アマモ場は、水生生物が生まれ、その棲みかになるだけではありません。光合成で酸素を供給し、窒素やリンを吸収して水質を浄化するなど、さまざまな機能をもった重要な存在です。
日本屈指の大きな内湾である陸奥湾は、静穏で透明度も高いことからアマモが生育しやすく、アマモの群生面積では日本一を誇ります。その一方で、実は失われた面積も日本一。埋め立てや護岸工事、ナマコの桁曳き漁による影響などで、広大なアマモ場が消滅してしまいました。そんなアマモ場を回復させようと、地元住民や漁業者と連携しながらアマモ保全の輪を広げているのが、志田さんです。
アマモの種苗を育てて海底へ移植する活動を続ける傍ら、アマモが安住できるシェルターのような“家”を開発したことが、保全推進の大きな一手となりました。その“家”の名は、「竜宮礁」。アマモの地下茎を守るドーム型の漁礁です。
「いいネーミングでしょ(笑)。竜宮城みたいに、いろんな生き物で賑わう場所になればいいなと願って仲間たちと名付けました。私の仕事は建設業で、港湾整備を通じて海の環境問題を知り、アマモ場の重要性と、その一方で直面している危機的状況を痛感しました。以来、アマモを増やそう!私たちが食糧を得るためにもアマモは大事なんだぞ!という発信をしています。竜宮礁は、桁曳き網からアマモを保護できる構造になっていて、且つナマコやウニなどの棲みかにもなります。2013年から県の公共事業で扱われているので陸奥湾での設置数は2万個近いはず。アマモ場回復に貢献できて嬉しいです」
設置後の追跡調査でヤリイカの産卵も確認され、水産資源を増やすために竜宮礁を活かさない手はないと、外海の強い波にも耐える大型版の開発に着手。387kgの標準型から15tへの大型化に成功し、現在は青森県内のほか新潟県(佐渡島)にも設置し、実証試験を行っています。
その竜宮礁の効果をまとめた学術論文が、2019年に日本水産工学論文賞を受賞しました。なんと志田さん、弘前大学大学院で学ぶ研究者でもあるのです。
「アマモは、大気中の二酸化炭素を取り込んで海に炭素を貯蔵してくれる、所謂ブルーカーボンです。なのにその種苗を育てるための揚水ポンプに二酸化炭素を出す火力発電の電力を使っているなんて矛盾してますよね。だから電力ではなく風車の動力で海水を汲み上げてアマモを育てたくて、揚水風車を研究するため大学院に入りました。開発した揚水風車は平舘漁港で実験中で、実用化の目処がたっています」
さらに今注目しているのは洋上風力の可能性。海の上で風力エネルギーを生産し、海の中では風車の基礎や漁礁で多様な水生生物が豊かに育ち、浜では暮らしや食糧生産に風力を活かす。そんな、再生可能エネルギーを軸とした海と人との共存共栄が理想のイメージだと言います。
「洋上風力発電は青森にとって重要な産業になるはずですが、漁業と協調し地域の為になることが大前提で、その歯車を合わせる仕事を今後やっていきたい。並行してアマモの保全と啓発、漁礁の開発、そして若者への海の勉強会も継続します。未来の循環型社会を思い描きつつ、地域で地道な活動を続けることが一番大事ですから。アマモを、海を、一緒に守る仲間を増やしていかないとね」