“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

愛知

海は、始まり。いろんな世界の入り口

ディープな魚の魅力の伝道師

神谷 友成

TOMONARI KAMIYA

PROFILE
生年月日
1957年3月15日
主な活動エリア
主に愛知県内(呼ばれれば全国どこへでも)
一般社団法人大日本水産会「魚食普及推進センター」名古屋駐在。愛知県名古屋市出身。
2020年6月までは名古屋市中央卸売市場の中部水産株式会社取締役執行役員。2008年日本おさかなマイスター協会認定「おさかなマイスター」取得。2009年大日本水産会の魚食普及表彰、名古屋市中央卸売市場市場協会功労者表彰。2012年から水産庁長官が任命する「お魚かたりべ」。メディアへの露出も多く、魚の生産者と消費者の橋渡しとなる情報発信を続けている。

魚を食べたいって思わせたい!耳石ワールドへようこそ

中部圏の食卓を支える名古屋市中央卸売市場で、セリ人として年間200種類を超す魚介類の集荷販売を30年間。続く12年間は消費者向けの販売促進部で魚食普及のための情報発信に邁進。そんな経歴を持つ神谷さんは、『魚を買うプロ』であり『売るプロ』、そして『魚の魅力を伝えるプロ』です。

日本はかつて世界一の魚食国でしたが、一人当たりの年間魚介類消費量は2000年代に入ってから減少し続けています。そんな中、豊かな食文化の継承と発展を謳う「食育基本法」が2005年に施行。それを受けて神谷さんは、販売促進のためだけではなく食育としても魚食を広めていこうと、「おさかなマイスター」の資格を取得して、“魚食の伝道師”の実力に磨きをかけてきました。

「おさかなマイスターの第1期生です。日本魚類学会の先生などが講師で、旬や栄養、産地や漁法、調理や扱い方などの幅広い知識に加え、食品衛生から水産物流通、マーケティングまで様々なことを勉強させていただきました。いろんな分野の『魚のプロ』と繋がって仲間が増えたことは、魚食普及の活動をしていく上で、今でも貴重な財産です」

2012年には、官民で水産物の消費拡大を推進する「魚の国のしあわせプロジェクト」の一環で、水産庁長官から「お魚かたりべ」にも任命されています。豊富な経験に加えて話術も巧みな神谷さんは、食育イベントや、愛知県や名古屋市の食育推進ボランティアに参加したり、新聞やテレビなどのメディアで発信したりすることを通じて、子どもから大人まで幅広い生活者に魚の魅力を伝えてきました。

「知識を伝えることも大事だけどそれだけじゃ足りない。いかに魚に興味を持ってもらい、実際に食べたいなと思ってもらえるか。その手法についてはすごく考えてきましたね。『美味しく食べて、楽しく学ぶ』これが大事なんです!」

そう熱く語る神谷さんが今注目しているのは、耳石(じせき)。
耳石とは、魚の頭蓋骨の中にある炭酸カルシウムでできた石のことです。大学などでは魚の生態研究に使われていて、耳石を分析することで、魚が移動した記録や年齢、成長の具合を明らかにすることができます。

「耳石を魚食普及に使ったのは私が初めてじゃないかな? 魚を美味しく食べた後に楽しく耳石を取り出してコレクションしよう!と、『耳石ハンターのすすめ』を提唱しています。自分が食べた魚から自分で取り出すというのがルール。ゲームみたいにハマってくれる子どもたちが増えています。食べながら集めるというのがポイントで、耳石をフックに、魚を食べたいという気持ちを引き出しているわけですね」

神谷さんのルールでは、耳石集めは親子ペアで遊ぶゲームで、親御さんは耳石ハンターのサポーター。例えば子どもが「アジの耳石が欲しいから食べたい!」と言った場合に親御さんはアジを買ってきて調理し、子どもと一緒に食べて耳石を探すという具合。

「耳石を集めるようになって子どもと接する時間が増えた、と親御さんに感謝されることも多いです。あの県のあの魚の耳石が欲しい、という動機で家族旅行に行く人もいる。なんて楽しいスタディツアーなんでしょう(笑)。YouTubeで耳石を取り出す動画も公開しているので、大人も含めて多くの人に見ていただけたら嬉しいな。ちなみに初心者には、煮干し(マアジやカタクチイワシ)がおすすめです。何の道具も使わず、手で耳石を取り出せますよ」

海や魚に興味を抱くきっかけは人それぞれですが、特に子どもたちには、耳石集めは魚を食べたいと思わせる仕掛けとして抜群の効果があるよう。神谷さんは、日本財団「海と日本プロジェクト」で行われている「さばける塾in愛知」の講師を2018年から務め、参加した親子が魚を捌いて料理し、美味しく味わった後に耳石を取りだすところまでを指導しています。

「耳石採集に慣れた子たちだと、『鮭はギロチンカットよりザビエルカットがいいよね!』なんて言ったりするんですよ。魚の頭をどうカットするかの話ですけど(笑)これが分かるってことは、魚の体の構造が分かっているということなんです。素晴らしい学びでしょ。耳石をきっかけに海の生き物や環境にまで興味を広げる子もいて、そういう子たちに『海、これからどうしたらいいと思う?』と聞けば、みんな当事者として考えて答えてくれるはずなんです。食育から環境教育にもつながっていきますね」

型にはまらないスタイルで、美味しい・楽しいをモットーに魚食普及を進める神谷さんは、本人もとても楽しそう。いつか、全国規模で耳石ハンターが集まるイベントをやりたいと目論んでいます。

「全国各地の子どもが、それぞれの地域の魚の耳石コレクションを持って集まる。100万年前の地層から出てきた耳石を持っている地質学者も、化石から出てきた耳石を持っている考古学者も集まって、子どもたちと一緒に耳石を語る。それって絶対面白いでしょ!ある意味、みんなが魚の語り部だよね」

“魚食の伝道師”が手招きする耳石の世界。この小さな石を入り口にディープな海の魅力にハマっていく、未来の伝道師がどんどん増えていきますように!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

「お魚かたりべ」の名に違わず、語り出したら魚ネタが尽きない魚博士。幼少期からの魚エリート(?)かと思いきや、魚とのご縁は名古屋にUターンしてからだとか。
「就職して猛勉強する前は魚なんて全然興味なかったから、魚を知らない人の気持ちがよく分かるんですよ」とのこと。なるほど、一般の生活者の気持ちに寄り添えるのはそういうわけでしたか。

自分を海の生き物に例えると?

「深海魚。いろんな圧力に耐えながら、深〜い暗〜い海の底にいるんです。骨が柔軟で、形が面白くて、美味しいやつも多いですよね〜」

独特の存在感とクセの強さで周りをザワつかせる感じ?神谷さんの魅力はとにかく「ディープ」ということですね!