“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

山口

海はステージ。信念を態度で示す場。

自然も人命も地域も守る!熱きライフセーバー

新名 文博

FUMIHIRO NIINA

PROFILE
生年月日
1965年12月31日
主な活動エリア
下関市内
株式会社海耕舎代表取締役社長。山口県下関市出身。
2012年、NPO法人コバルトブルー下関ライフセービングクラブ設立。競艇選手として活躍していたが49歳で引退し、2016年に海耕舎を立ち上げ体験型観光事業を展開。漂着ごみ回収や環境教育、過疎化など地域課題の解決に向けた取り組みが認められ、令和2年度チャレンジやまぐち!地域貢献賞を受賞。

安心で美しい海をベースに、地域を活気づけたい!

山口県下関市の角島(つのしま)と本州とを結ぶ角島大橋は、コバルトブルーの絶景で知られる人気スポット。その角島大橋のたもとの海が、新名さんと仲間たちが活躍するフィールドです。

「例えばホワイトビーチ島戸(旧島戸海水浴場)とか、角島周辺の海は僕にとっては世界に誇れる素晴らしさ。この環境を保ちたいと心から思ったことが、色んな活動の原点でしたね」

新名さんは、海水浴場の安心安全を守るライフセーバーでありつつ、海で体験型観光サービスを提供する海耕舎を運営し、その収益を地域の課題解決に活かそうというソーシャルビジネスに挑戦しています。

(↑)左端前列が新名さん

大学時代にヨット部で主将を務めていた新名さんは、卒業後、ボートレースの道へ。競艇選手として全国各地を転戦していました。しかし、1999年にレース中の事故で頸椎を骨折。リハビリのために地元ビーチでサーフィンを始めたところ、波乗りの魅力にどっぷりハマると同時に、美しい海への愛が深まっていきました。

「ちょうど角島大橋が開通した2000年の頃です。当時の角島は、まだウエットスーツを着たサーファーが島に出入りすることを良く思わない人もいました。でも僕たちサーファーだって海を愛しているし、角島の環境を大事にしたい。それを理解してもらうために、仲間たちと海岸清掃を始めました」

(↑)海岸清掃の様子

サーフィンを通じて角島の海に親しみながら地道な清掃活動を続けること数年。たまたま、サーファー仲間が溺れていた人を救助したことがきっかけで、新名さんたちは「海難事故防止の面で地域の役に立てる!」と思いたち、任意団体「角島サーフレスキュー」としてボランティアガードを開始しました。
角島周辺の海水浴場ではそれまで毎年のように死亡事故が起きていたため、事故を未然に防ぐレスキュー隊の登場は地元に大きなインパクトを与えました。

「人命救助のスキルをもっと高めようと、仲間全員でライフセーバーの資格を取ったんです。体力や泳力が求められるのはもちろん、心肺蘇生など様々な知識が必要で大変でしたが、みんなで頑張りました!それで2012年にNPO法人として立ち上げたのが、コバルトブルー下関ライフセービングクラブです」

下関市にある東亜大学で救急救命を学ぶ学生らとコラボレーションするなど、積極的に活動の輪を広め、登録するライフセーバーも増えていきます。メディアでも取り上げられるようになり、ライフセービングクラブが守る海水浴場は利用者数が激増しました。

しかしその一方で、NPOとして続けていくには資金面でも体制面でも限界が。そこで新名さんは、競艇選手を辞め、新たに株式会社海耕舎を設立。クリアカヌーなど、海の美しさを活かしたマリンレジャーを提供する事業を始めました。

ただ、海耕舎は単なる観光業者にあらず。収益を上げつつ地域の課題解決に役立つことをミッションとしています。
例えば、近年増え過ぎて駆除対象になっているクロガゼ(ムラサキウニの一種)。商品価値が高いアワビやサザエの餌になる海藻を食べ尽くしてしまうことで漁業に悪影響が出る上に、海水浴客の足に刺さって危ないということで海の厄介者扱いされているこのクロガゼを駆除する方法として、観光客にレジャー感覚でウニ捕り体験してもらうという観光プランを実施しました。この斬新なアイデアは2017年度の山口県ソーシャルビジネスコンテストで準ブランプリを受賞しています。

「NPOの活動は、ライフセービングや海岸清掃のほか子どもの自然体験や環境教育など範囲が広がり、地域の魅力化のためにとても大事だけれど、持続的であるためには、一方で事業収益を上げていくことも必要です。それが海耕舎であり、海耕舎が手がける体験型観光サービスの質と安全を担保するのがNPO(ライフセービングクラブ)。両輪でうまく回していきたいんですよね」

そんな新名さんたちに、2018年夏、待望の“拠点”ができました。それは「渚の交番 島戸」。
渚の交番とは、海にまつわる活動のための拠点施設を整備する日本財団のプロジェクトで、新名さんたちの渚の交番は全国で6番目、中国地方では初の設置でした。

「僕はここを、海難救助だけではなくて、色んな地域課題を解決していくためのハブ(中核)施設にしたいと思っています。過疎化や高齢化、空き家の増加問題にどう対処していくか。地域をなんとかしたいという想いやアイデアを持つ人が渚の交番に集まり、話し合い、連携して、活動を面的に進めていく。今は、新型コロナウイルスという時代にマッチしながら交流人口を増やすために角島でのワーケーション(働きながら休暇を取る過ごし方)を発信したらどうか、ということも話し合っています。拠点ができたことで、本当に人が繋がりやすくなって、できることが増えた。業種を超えて協力し合うことの重要性を実感しています」

(↑)渚の交番島戸。外観は船をイメージし、会議室やキッチンも完備

渚の交番ができて海での活動がしやすくなったことで、地元サーファーや地元企業の中から自発的・自走的に海岸清掃などを行うボランティアチームも生まれているそうです。また、地域の情報発信を手伝いたいという大学のボランティアサークルが合宿に来るなど、若者人材のサポートも得やすくなりました。

新名さんが目指すのは、「誰も置き去りにしない、より良い世界」。SDGs(持続可能な開発目標)の考え方を踏まえて、次世代の子どもたちへ海への想いを繋ぐために、相対的貧困や何らかの事情で海に遊びに行くことができない子どもたちを海に招くなど、体験格差を解消しながら海への愛を育んでいく事業を実施する予定です。

「渚の交番島戸をハブとして、年齢や職業、性別、国籍や居住場所などすべての垣根を超えて、地域の課題解決に挑んでいく、そんな強いチームでありたい。海をステージに、若い子たちが憧れるような姿もたまには見せて(笑)、後継者に引き継いでいくことも意識しながら活動を続けていきたいですね」

まるで新名さん自身が、タテ(あらゆる世代)、ヨコ(あらゆる職業)の人を繋ぐハブであるかのよう。
コバルトブルーの海を舞台に、新しいストーリーが紡がれつつあります。

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

「無人島で朝から晩までサーフィンできるのと、1日1時間だけ友人と楽しくサーフィンできるのとどちらかの二択なら、僕は後者です」と新名さん。仲間大好き!仲間あってこその海!なんです。

自分を海の生き物に例えると?

「イルカ!僕が波に乗っているときに真下に来てたこともある、可愛いやつ。何となくですが、僕、前世はイルカだったかもしれないなと思っているんです」

イルカといえば、陽気でポジティブなイメージ。ヨーロッパでは、イルカは溺れた人を救うイメージからキリストのシンボルという説もあるとか!救済の象徴だなんて、新名さん、ドンピシャですね〜