漂着木材から生まれたお金を海岸清掃に回す。これぞ循環経済
鳴門と言えば渦潮。徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市の間にある鳴門海峡で発生する渦潮は、春と秋の大潮の時には渦の直径が最大20m、潮の速さは時速20kmにもなり、世界最大級の渦潮と言われています。
また、流れ込んだ黒潮が淡路島をぐるりと回って都市部のごみを運んでくるため、鳴門は漂着ごみが集まりやすい場所でもあります。
そんな鳴門の海岸で、黒川さんはごみ拾いを続けながら、拾った流木をペンやキーホルダーとしてよみがえらせる活動をしています。
2012年に兵庫県から徳島の鳴門に移住した黒川さんは、当時、鳴門市内の「MEER(メーア)」に関わったのがきっかけで海岸清掃を始めました。メーアとはドイツ語で海を意味し、もともとは空き店舗を活用したカフェ兼ハンドメイド雑貨店の名前です。
現在鳴門市では「うずしおクリーンアップ」という大規模な海岸清掃が定期的に行われていますが、その始まりは、メーアのお客さんや地域の人が一緒にやっていた月に一度のビーチクリーンだったそうです。
(↑)地元カヤック業者の協力で鳴門海峡のごみをメガSUPで回収したことも
メーアの活動として海岸清掃を始めた頃、黒川さんはひょんなことから兵庫の友人に「流木で、ペン作れる?」と相談されました。流木すなわち漂着木材は、ごみであると同時に、上手に使えばナチュラル系インテリアの素材として人気が高いもの。友人は美容師で、店に置けるお洒落なアイテムとして流木ペンをリクエストしたのです。その要望に応えて作ったのが、黒川さんオリジナルの流木ペン第一号でした。
「確か、その友人はイマイチ喜んではくれなかったんですけど(笑)。僕は閃いたんです。海で拾った流木に付加価値をつけて高く売るにはどんなストーリーが必要か。どうしたら高い値段でも納得して買ってもらえるか。お洒落な商品に仕上げる工夫はもちろん大事ですが、さらに、その売り上げを海岸清掃の資金に回せばいいんだと。拾ったごみをお金にして、そのお金でまたごみを拾う。お金儲けじゃなくて、お金の有意義な循環!このサイクルがうまく回れば楽しいし、サステナブル(持続的)だなと」
黒川さんの流木ペンは、アップサイクル(Upcycle)。アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの物に、デザインやアイデアといった新たな価値を持たせることで別の新しい製品に生まれ変わらせること。原料に戻したり分解したりして再利用するリサイクルではなく、元の形や特徴をそのまま活かしつつ別の素敵なモノに進化させる、ごみを宝物に換えるという考え方です。モノの寿命を長く引き延ばすという意味でサステナブルでもあり、近年ではファッションや家具などの分野でも注目されています。
「海ごみ問題への関わり方はいろいろですが、僕は『修理』が得意だし趣味なので(笑)、流木のアップサイクル はとてもしっくりきています。手にしていただいた方へは、なぜ流木で作るのか、何のために売るのかを説明することで、海ごみ問題により深い関心を持ってもらえています。子どもたちにも伝わりやすいですね」
流木ペンのほか魚の形のキーホルダーやストラップも開発し、最近ではイベントで流木雑貨を販売したり、海ごみ問題を解説するパネル展示をすることも。市民団体や学校、徳島県教育委員会の市民講座などで講話を行うことも増えました。
子ども向けに、宝探しに見立ててマイクロプラスチックごみの回収と講話をセットで行った時には、後日その子たちがごみの分別に関心を持つようになったそうで、「小さな規模ですが、未来の海ごみ削減に向けた活動として手応えを感じています」
2021年春、黒川さんはリユース事業にも着手します。リユースはリサイクルとは違い、繰り返し使うこと。モノを再利用して地域内でくるくる循環させる「リユースショップ」として店舗を持ちつつ、鍵の開閉や電気の点灯を自動化するなどITをフル活用した省人化で、まずは一人でも運営できるような仕組みを準備中です。
「店内にはリペア(修理)やアップサイクルのための工房も作りたい。モノを大事に長く使い、なるべくごみを出さない暮らし方を発信したいですね。流木工作は、ごみから生みだしたお金を循環させることで海を守って行こうという僕なりのメッセージなので、鳴門以外のいろんな海に広げていけたらいいな。全国各地でご当地流木アイテムが誕生して販売されるのが僕の理想です!」
流木ペンを作ることが、目指す生き方のイメージにも繋がった黒川さん。「どこへでもノウハウを教えに行きますよ!」とヤル気満々です。(ライター談:島根県の隠岐にもぜひ来ていただきたい!!)