“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

福井

海は怖くてやさしい、母ちゃんみたいな存在。

海にやさしい食文化クリエイター

野坂 昌之

MASAYUKI NOSAKA

PROFILE
生年月日
1963年6月4日
主な活動エリア
福井県内
有限会社あまから代表取締役社長。福井県福井市出身。
昭和9年創業の老舗洋食店「グリルあまから」3代目オーナーシェフ。2016年に紙製の岡持ち「多段式食品梱包容器」で特許取得。2020年には容器にもプラスチックを使わない「使い捨てOKAMOCHI」で二度めの特許取得。2014年発足の福丼県プロジェクトでは実行委員長を務め、脱プラの食イベントを牽引している。

脱プラスチックへ!テイクアウト文化に革新を

2020年初頭から新型コロナウイルスが蔓延し、その感染防止対策のため、飲食物のテイクアウト販売が一気に増えました。それに伴ってレジ袋とプラスチック容器の消費量も激増し、このままでは海ごみ問題の悪化が避けられません。なぜなら、海ごみの多くは内陸部でポイ捨てされるレジ袋やプラスチックごみが川から海へと流れ込んだものだからです。

そんな状況の中、「プラ製のレジ袋ではなく『紙製の岡持ち』を使うテイクアウト文化を提案したい!」と、容器も梱包も全てをプラスチックフリーにできる画期的な岡持ちを世に出した人物。それが野坂さんです。

岡持ちとは、いくつもの料理をお店の器に入れたまま多段に積んで出前をし、後で回収するための、持ち手のついた箱のこと。

「岡持ちは江戸時代から使われていた道具で、ごみを出さないという意味で自然環境にやさしいシステムでしたが、現代では廃れてしまいました。この岡持ち文化を時代に合った形で復活させたくて…自分は企業のマーケターでも発明家でもなく、ただの料理人なんですけれども(笑)、いいのが無いから自分で作っちゃいました」

試行錯誤して自作した「食品多段式梱包容器」で特許を取り、紙製の使い捨ての岡持ちを最初に発表したのは2017年。しかし当時は中の容器にはまだプラスチック製のものを使っていました。

「最初は、実は環境保全というよりも自分の店の差別化につなげることを狙っていたんです。でも2018年が転機となりました。鼻にストローが刺さったウミガメの映像が世界に衝撃を与えたでしょう。あれを見て自分もショックを受けました。一気に危機感が募り、これからは世界全体で脱プラスチックに向けて動かなければならんと。環境や次世代のことを考えた商品開発をしなければならんと。そこから、容器も岡持ちも全部を紙で作ろうっていう挑戦を始めたわけです」

その後は素材や構造を再検討して試作を重ね、中の容器やカトラリーも紙製や木製にして、テイクアウトの一式すべて脱プラスチックを実現する岡持ちがついに完成。新商品「OKAMOCHI カフェバッグ/デリバッグ」として2020年5月に全国販売を始めたところ大きな反響を呼び、80件以上ものメディア取材を受けました。

(↑)容器やカトラリーが納まる紙製のOKAMOCHI カフェバッグ。

料理の腕以外に、新しいアイデアを形にする才にも恵まれ、仲間を集めて盛り上げることが得意な野坂さん。多くの地元団体が協力する官民一体の取り組み「福丼県プロジェクト」でも、スタート当初からずっと実行委員長を務めています。
その活動の一環として、2021年に仕掛けるとっておきの企画を練っている最中とのことで、内容をこっそり教えてもらうと…。

「キーワードは、カップごはん!カップ自体を新しくするんです。ごはんを入れる器はみんな丼だと考えて、バガス(=サトウキビの搾りかすを使用した紙の一種)などの天然素材を使って今までに無い器(カップ)を新開発するのは、福丼県のニューノーマルな取り組みとしてアリでしょう」と自信満々。

「Withコロナの時代に作り出したいブームはズバリ、『カッコいい車食(しゃしょく)』です。コンビニで買ったお惣菜を車の中で食べている人を見て、カッコ悪いなぁと思ったのが着想のきっかけ。どうしたら車の中でカッコよく食べられるか?おにぎり以上・お弁当未満のボリュームにするにはどうしたらいいか?器が大きすぎず小さすぎず、持っても熱くなくて、こぼれなくて、もちろん環境にやさしくて…などなど色々考えて、答えはカップごはんだー!と。バガス素材のカップと、それを何個か入れられるカッコいいカップホルダーを世に出します。普及するためにはカッコいいデザインが必要なんですよ。新しい車食文化のイメージが俺にはもう出来ている!実現するのが楽しみだー!」

(↑)食のイベントでは海ごみゼロオリジナルごみ袋を配布してごみ拾いを実施

国は、「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」(環境省)と宣言しています。
「そのために、当社のOKAMOCHIが役に立つはず。普及が進めば、採用する企業もそれを使う消費者の意識も変化して、社会全体の意識改革につながります。ただ、まだ認知度が低くて単価が高いのがネックなので、今後はより多くの企業に使っていただくことでコストダウンを進めていきたい。海ごみ問題をなんとかしないと漁獲量がますます減って、飲食業界では海産物をメニューにしている店が潰れてしまうでしょう。私はOKAMOCHIの普及に社会的意義を感じている。自分が今これをやらないと日本の食文化が壊滅してしまう、というくらいの気持ちですよ」

(↑)レジ袋やプラスチック容器を使わないオールプラスチックフリーの食イベント、福丼県フェスにて

Withコロナ時代のニューノーマルとして、海にやさしいテイクアウト文化を。
「熱源には次々と燃料を入れないといけないでしょ。だから、敵も逆境も、私にはありがたいんですよ」
コロナ禍すら燃料として、豪快に進む野坂さん。2021年は福井県から熱いムーブメントが巻き起こりそう!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

自分自身を「天才ならぬ、天災料理人かも…」という野坂さん。かつて、目玉焼き専用ドレッシングを開発した時には河川の氾濫で工場が流され、白いとんかつソースを開発した時には大地震が勃発。「逆境も燃料!」と豪語する野坂さんなので、天災のたびにパワーアップしてるってことですね。やっぱり何かを持ってます。

自分を海の生き物に例えると?

「クラゲ。小さいけど人も殺せる、すごく弱いけどすごく強い、得体が知れない謎の存在!裏表がなく神秘的で、見てると癒されるのも良いよね〜」

得体が知れない、“只者ではない”ボスキャラ感。確かに野坂さんからもその匂いを感じます…