“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

鳥取

海は、多様性と循環

海・山・人の仲介人

大原 徹

TORU OHARA

PROFILE
生年月日
1980年1月24日
主な活動エリア
鳥取県西部
Hidden west代表。鳥取県米子市出身。
皆生レクリエーショナルカヌー協会(KRCA)専務。NPO法人大山ローカルサーフィンクラブ理事。マリンスポーツのほか山遊びにも精通したネイチャーガイド。子ども向けに自然体験と地域の歴史文化をセットで伝える活動も行う。

自然と上手に関わることで、人も地域もハッピーに

中国地方の最高峰、大山。国立公園である大山の麓には、すぐ日本海が広がります。そこには全国有数のサーフポイントが点在し、山と海、自然の懐で遊ぶには絶好のエリアです。
中でも鳥取県西部の米子市にある皆生(かいけ)海岸は、山陰を代表する温泉郷・皆生温泉もある人気スポット。ネイチャーガイドの大原さんはこの皆生を拠点に、マリンスポーツや冬の雪山体験などを通じて、自然の尊さと地域の魅力を伝えています。

高校生の時にサーフィンを始め、地元である米子の海の環境の良さを実感したという大原さん。その後は山遊びもするようになり、海も山もひっくるめた大山エリアの豊かな自然にどっぷりと魅了されていきました。
サーフショップの店長をしていた時期もありましたが、「モノを売るよりもお金で買えない自然体験を提供したい」と、ネイチャーガイドに転身。“鳥取西部の隠された魅力”を伝えたいという想いを「HIDDEN WEST」という店名に込め、小学生から高齢者まで、様々な遊び方で自然を堪能してもらうサービスをしています。

例えばSUP(サップ)。近年人気が上昇中し、水上スポーツの新定番とも言われるSUPは「Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)」の略称です。その名の通り、ボードの上に立ってパドルを漕いで水面を進むアクティビティで、安定感のある専用ボードを使うことで初心者でも簡単に立つことができます。

「SUPの魅力は、自由度の高さ。サーフィンは波がないと出来ないけれど、SUPならヨガしたり釣りしたり、なんなら寝ててもOKだし、海抜ゼロの景色を楽しんでるだけでもいい。一方で洞窟探検や冒険的なこともできて、遊びの幅が広いですね。シーカヤックと比べると、海底の見え方が違います。カヤックは座っているので光が乱反射して海底が見えづらいのに対して、SUPは海底も魚もよく見えるんですよ」

さらに自然体験の価値を高めるにはコツがある、という大原さん。その秘訣とは…?

「それはですね、『失敗』です。SUP体験に来てくれた人には、必ず、一度、海に落ちてもらうんですよ(笑)。落ちてもOK、むしろ落ちることで何かを発見できてクリエイティブ性が高まる。失敗を恐れない気持ちを自然体験の中で養えます。もちろん海は危ない一面もあるのでそこは押さえて、自然への畏怖を持ちつつ安心して抱かれる感じかな。普遍的な自然と人間との関わりを伝えるツールとしてSUPは優秀だと思ってます」

子どもを対象とした自然体験で海の楽しさや強さをレクチャーする機会も多くあります。特に2020年は、新型コロナウイルスの影響で修学旅行の代わりに、近場の皆生海岸を訪れる団体が相次ぎました。大原さんはマリンスポーツやサイクリング等のアクティビティだけではなく、鳥取の歴史や文化、地形の成り立ちなどもしっかりと伝えました。

「訪れた人たちに地域の素敵さを感じてもらうのと並行して、環境を守る活動も続けています。海に関わる皆さんの協力で定期的なビーチクリーンを開催し、地元住民のサーファーに対する理解が深まったり、コミュニケーションも取りやすくなりました。そのおかげで皆生のアクティビティが多様化して、地域の魅力として還元できている。ネイチャーガイドとして、いかにお金以外の喜びを提供できるか、来た人も地元もみんな楽しくて豊かになるにはどうしたらいいかを模索しています」

(↑)子どもたちと一緒にビーチクリーンをすることも

マーケティングの視点で見ると、世の中はかつてのモノ消費からコト消費へ、そして今はヒト消費の時代と言われています。つまりこれからの観光は、客を迎える一人ひとりの知識や知恵、経験値がそのまま観光コンテンツになるということです。

「だからこそ、お客さんとプレイヤー(=体験を提供したい人)とのマッチングが大事です。そういう意味で、幸せなマッチングを実現するプラットフォームを作りたい。海や山を愛する人は山陰にたくさんいて、それぞれの得意分野や年齢に即して多様な自然体験を提供することができる。そういう人たちが登録できるプラットフォームを作れば、すごく多様な体験コンテンツを観光商品として用意できるので、お客さんのニーズにきめ細かく応えられますよね。地域の人材を活かし、交流人口が増えて経済が潤う。海や山と触れ合う人が増えることで多くの人が自然を大切にするようになる。この仕組みがうまく回ったら最高ですね!」

(↑)トークイベントでの様子

2020年、皆生温泉は温泉地として開発されてから100周年を迎え、様々な記念事業が企画されていました。その一環として鳥取初のSUPの大会も予定されていましたが、新型コロナウイルスの影響でやむなく中止し次年度に延期。100周年記念の「皆生マリンフェスティバル」や「神話の風土SUPフェスティバル」の事務局長を務める大原さんは、逆境の今こそ新しいコンテンツ(観光の選択肢)を増やしたり、横の連携を強めたりするチャンス!とばかりに、2021年夏の開催に向けて動き始めています。

「自然を守りながらスポーツツーリズムを進めていくには、地元の人どうしの繋がりが欠かせません。海も山も、そして人もみんな繋がっていますし、これからの世界のキーワードは『多様性と調和』だと思います。僕の描く理想は、ハンディキャップやLGBT関係なくすべてのジャンルの世界中の人に、何らかの形で鳥取の自然や歴史を体感してもらえるようになること。遠い道のりかもしれないけど出来ることから取り組みます。海岸のシャワー増設やバリアフリー化も必須ですし、まずは一人でも多くの方に海で喜びを感じて欲しい」

ネイチャーガイドとして山陰の魅力を発信しつつ、変わりゆく社会の先にある“調和”を目指す。
穏やかな笑顔の裏に、熱くてブレない魂を見ました!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

山も大好きな大原さん。冬の大山の楽しみ方の一つとして、雪上でサーフィンできる(!?)遊び道具も作りました。
「雪板という新しいスノーアクティビティで、足が固定されないのが特徴。体験ツアーも始めてますのでぜひ!」
自然と戯れるための創意工夫、本当にクリエイティブ!

自分を海の生き物に例えると?

「カメ。自由で緩くて平和な感じが好き。カメは万年と言いますし、色んなものと調和しながら長〜くじっくり生きるイメージ。自分もそうありたいですね」

…そう言えば大原さんの風貌、仙人感が漂うような気も(笑)