“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

滋賀

湖(うみ)は、生き物そのもの。

琵琶湖の探究に没頭!未来の研究者

黒川 琉伊

RUI KUROKAWA

PROFILE
生年月日
2007年12月30日
主な活動エリア
滋賀県大津市内
大津市立志賀中学校2年生。
無類の魚好きで、魚を採って調べることも育てることも、食べることも絵を描くことも大好き。特に琵琶湖の湖魚について圧倒的な知識をもつ。2018年度ラムサールびわっこ大使に就任し世界湖沼会議に出席。自作の水槽で魚の飼育・観察を楽しみながら自分なりの研究を進めている。

琵琶湖の謎を解き明かすのは僕だ!

毎朝4時起きで水槽の世話をし、飼育している魚たちの生態を全集中で観察するのが登校前のルーティン。
暇さえあれば、家から走って30秒の琵琶湖へ行って湖魚を採ったり、分からないことを魚図鑑で調べたり、好きな魚の絵を描いたり…。

草津市の県立琵琶湖博物館へは幼少期から数えておそらく数百回(!)は通っているという、とにかく魚が大好き、琵琶湖オタクの黒川琉伊くん。

尋常ではない“琵琶湖愛”と博識ぶりが注目されて某人気テレビ番組に「博士ちゃん」として出演したこともあり、地元・大津市はおろか全国の人からも知られるようになった、正真正銘の「琵琶湖のお魚博士」です。

海水魚も淡水魚もあらゆる魚類に関心があり、生物の進化や地球の歴史にも分野を広げて幅広く勉強している中、一番興味があるのはやっぱり琵琶湖のこと。
日本最大かつ最古、なんと約400万年も前に生まれた「古代湖」である琵琶湖には、今も多くの固有種が生息しており、そのミステリアスな生態が琉伊くんの心をつかんで離しません。固有種の話題になると鼻息も荒く…。

「魚だけで16種類も固有種がいるって凄すぎる!琵琶湖にしかいーひんっていうところにロマンがある!なんと言っても、まだまだ謎が残ってるところがいいです。環境についても解明されてないことがあるし、固有種も半分くらいしか生態が分かってない。実は17種類めの固有種がいるはずなんです。20年以上見つかってないんやけど…。スジシマドジョウ小型種の一つで淀川型。見つけたい~!」

(↑)(↓)弟の羽琉(はる)くんと生き物採集。琵琶湖に潜ってヨシノボリやイサザ、テナガエビなどを網で採ります。

小学5年生の時には「ラムサールびわっこ大使」に選出され、滋賀県代表の一人として、国際的な会議である第17回世界湖沼会議に出席。国内外の小・中・高校生による学生会議において、琵琶湖の湖魚の伝統漁法や伝統食について発表しました。

「琵琶湖の謎を解明できる研究者になりたい!」という一心で、現在はジュニアドクター育成塾(文部科学省・科学技術振興機構による次世代人材育成事業)の一環である「琵琶湖ジュニアドクター」の3期生として講義を受け、琵琶湖の生態系や水質、魚の遺伝子、湖の古地理などについて、大学や研究所の専門家から直接学んでいます。

「生体力学や、湖の土砂の流れを教わって、魚の動きを推測できるようになった。これは釣りをする時に役立つ!」と、座学を即フィールドで活かせるのが大きな強み。
研究の道を着々と進んでいる…とは言えガリ勉タイプとは程遠く、子ども時代はザ・野生児だったという琉伊くん。お母さんが「無口だけどめちゃめちゃ走り回る、まるで猿の子どもでした(笑)」と呆れるほどで、海や川、山で生き物たちと一緒に遊ぶのが日課だったんだとか。つまり、毎日がフィールドワーク。自然の中で身体で学んできた知恵と感性が、いまに活きています。

(↑)川ではビワマスの稚魚や、ヨシノボリ、鮎、スジエビ、メダカ、モロコなどを採集。川虫や水生昆虫なども観察。

淡水魚の飼育水槽も大切な“生きた教材”。鑑賞が目的ではなくあくまで研究者目線です。自分で採取してきた水草を使ってより自然に近い環境をつくり、スジエビなどの繁殖にも成功。生き物が生まれ、死に、交代していく様子や、弱肉強食や食物連鎖の在りようも、実際に目でみて学んできました。

「小さいワタカ(琵琶湖固有種かつ絶滅危惧種)を育てていた時に同じ水槽にヨシノボリを入れたら、食べられてしまった。ヨシノボリは肉食なんです。自然の厳しさを知りました…」

そんな琉伊くんの周りには、彼の情熱や才能に注目し、応援したいという大人がたくさんいます。

「同世代よりも大人の“うおとも(魚友)”がいっぱい。魚について分からないことがあったとき、うおともに聞いたら解決することも多いです。釣り友達の他にも、大津の湖魚屋さんとか、近江八幡の佃煮屋さんとか。マキノ町の漁師さん(※滋賀県のもう一人の熱源、中村清作さん)は色んなことを教えてくれて、たまにアユをくれます。イワトコナマズをもらったこともあったな〜!」

愛を込めて描く湖魚のイラストにはファンが多く、大津市内にある某焙煎所の「びわこブレンド」(珈琲豆)のパッケージにプリントされたハスは琉伊くんの作品。また、湖魚を易しく紹介する絵本を作ろうという話が進んでおり(※長浜市内の出版社から2022年春に出版予定)、琉伊くんがすべての絵を描くそうです。

(↑)湖魚の絵本はこのようなテイストで描かれる予定。子どもたちに愛される素敵な絵本が出来そうな予感!

研究者になったら取り組みたいと思っているテーマは、「固有種と外来種が共存できるにはどうしたらいいか」。
固有種の絶滅を防ぐために外来種を完全に駆除しようとするのではなく、大きなサイクルで見たら減少と回復を波状に繰り返して維持できていくような、生態系のバランスを取りながら個体数を調整していく方法を確立したいと言います。

「琵琶湖は、それ自体が生き物みたいで、一番の絶滅危惧種かもしれん。この環境や魚をずっと守りたいし、漁師さんの役にも立ちたいから、必ず研究者になります。そして…17種類めの固有種を見つけるのは僕だ!と思ってます」

愛と決意がにじむ、未来への宣言。見届けさせてもらいましょう!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

海も山も大好きな琉伊くん。もともと目が良い上に、幼い頃から野山を駆け巡ってトノサマバッタを果てしなく追いかけたり、野鳥観察にいそしんだり…。知性のみならず“野性”を磨くトレーニング(?)を続けていたためか、驚異の動体視力が身につきました。今では、釣りの時には魚影で魚を言い当てることができるそうです!

自分を海の生き物に例えると?

「琵琶湖固有種。まだ判明してないことが多くて、未知数だから」

確かに琉伊くんも“珍種”に間違いありません…。
未知なる可能性の宝庫!もう期待しかない。