“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

香川

海は、遊びのフィールド

うどん県の海ごみリーダー

森田 桂治

KEIJI MORITA

PROFILE
生年月日
1969年10月25日
主な活動エリア
香川県内
NPO法人アーキペラゴ副理事長。香川県高松市出身。
自ら設立した株式会社ゴーフィールド等の企業を経営する傍ら、環境や観光、文化振興など地域課題の解決を目指す複数のNPO法人の活動をサポート。香川県が進める里海づくりや海ごみ対策にも参画し、香川県海岸漂着物対策活動推進員の一人として、瀬戸内海の環境保全や海を守る人材育成等に取り組む。

うどん店を“給水オアシス”に! 香川らしいやり方で、脱・使い捨てプラスチック

香川県は言わずと知れた讃岐うどんの本場。“うどん県”の称号に違わず、「早くて安くて美味い」うどん文化が深く根付き、全国で一番狭い県でありながら県内のうどん店は600店を超えます。

そのうどん店に、水筒などの「マイボトル」を持参すれば水やお湯を無料で提供してもらえる仕組みー…『うどん店で給水できるオアシス運動』が、海洋汚染の原因となる廃ペットボトルを削減するための妙案として、2019年の第1回「海ごみゼロアワード」(日本財団、環境省)でアイデア部門の日本財団賞を受賞しました。
この取り組みに先陣切って取り組んできたのが、活動主体であるNPO法人アーキペラゴ(高松市)の副理事長、森田桂治さんです。

「アーキペラゴで行っている海ごみ調査で分かってきたことですが、香川の海ってペットボトルのごみが多いんですよ。海岸清掃でごみを回収するのも大事だけれど、やっぱり並行してごみの発生を抑えるアクションが必要。そのために、県民の皆さんにはペットボトルを買うのではなくマイボトルを持ち歩いてもらいたい。香川の至る所にあるセルフうどん店に“給水”の協力をしていただければ、脱プラのライフスタイルへ一歩近づけるのでは…と」

(↑)「手打ちうどん ひさ枝」(高松市)でマイボトルに給水する森田さん。『マイボトルOK!』の張り紙がオアシスの目印

若い頃は大手電機メーカーでトップ営業として活躍していた森田さん。海外勤務も経験し、例えばロッキー山脈や、アフリカ大陸の最高峰・キリマンジャロといった圧倒的大自然のアウトドアレジャーが好きだったそうです。ところが…

「なんだか飽きてしまって(笑)。世界的な大山脈も凄いけど、瀬戸内海の身近な自然も良いなと。人の手で守っていく里海や里海の姿も悪くないと感じ始めました。子どもの頃から海で漂着物を拾うのが大好きで、当時はまだビーチコーミングという呼び名もありませんでしたが、貝殻拾いは本当に楽しかった。そんなトキメキを思い出して、またふるさとの海でシーカヤックなどで遊び始めたんですが…、肝心の海が、昔とは違っていることに気づきました。プラごみがとても増えていたんです」

海ごみへの問題意識が高まった森田さんは、自ら起業したIT企業を経営する傍らで、海の環境保全に取り組むアーキペラゴの活動にも精力的に関わるように。漂着物のプロである大学の先生に専門的な知識や調査方法を教わり、浜辺でお宝(漂着物)を探すフィールドワークとパネルでの学習を組み合わせた出前講座のやり方や、子どもにも伝わるロジカルかつ興味を引く表現など、さまざまなノウハウを身につけました。

「15年ほど前に鹿児島大学の藤枝繁先生という海ごみ問題のプロに“弟子入り”しまして、先生直伝の講座スタイルを会得しました。おかげで今や3日に1回は海ごみ講座の講師をしてます。特に今年(2021年)の秋は小学校や企業の依頼が多いですね。クリーンアップの指導を一緒にやることもあるので、僕、年に50回はクリーンアップしてますね!(笑)」

(↑)浜辺での出前講座で講師を務める機会も多い。マイクロプラスチックの学習や海ごみ調査の指導などを行う

アーキペラゴは、同法人が設立された2009年から県内各地でビーチクリーンアップ活動を行っており、多い時には参加が100人を超えるという大規模なクリーンアップイベントを年に4回、大量の海ごみが漂着する重点ポイントで実施しています。2019年の海ごみゼロアワードでの受賞は、10年以上続けてきた地道な海岸清掃も高く評価されてのことでした。

(↑)(↓)アーキペラゴが主催するせとうちクリーンアップの様子

そして、プラごみの回収だけでなく発生を抑制するアクションをしなければ事態は変わらない!そんな危機感からスタートしたのが、脱・使い捨てペットボトルの取り組み。持参したマイボトルにうどん店で給水できる仕組みづくりです。

「まずは高松市内で協力してくれる店を募集して、最初は3店舗だけでした。実は県内の全うどん店、約600店にDMを送ったんですよ!で、返事が返ってきたのは40店。そこからじわじわ増やしていって、今はうどん店だけで80店です。他にもカフェや、公園や図書館など公共施設も協力してくれて、全部を合わせると200カ所くらい。すべての給水所を掲載した『オアシスマップ』をアーキペラゴのホームページで公開しています」

(↑)うどん店での給水。水よりもお湯が欲しいという女性も多く、どちらももらえるのは助かる!

森田さんが「環境保全への取り組みが全国自治体の中でもトップクラスに熱心!行政と市民の二人三脚が実現している!」と称賛する香川県。環境管理課が主管で、県内全域の関係者をネットワーク化して「山・川・里(まち)・海を一体的に捉えて保全・活用していく里海づくり」を進めています。
その一環で、香川県と香川大学が協働して立ち上げたのが「かがわ里海大学」。運営委員には森田さんも名を連ねています。

「今って、海を守る以前に海での遊び方を知らない人が多いです。だから里海大学では、まずは海と親しむ方法を知る『スタートアップ』から始まって、里海や海ごみを学ぶ『ステップアップ』、さらに里海ガイドや海ごみリーダーとして知識を深める『スキルアップ』という3つのレベルに分けて、色んな内容の講座を用意しています。今までのところで『里海ガイド養成講座』と『海ごみリーダー養成講座』を両方修了した人が13人いて、海ごみ対策の活動を主体的に企画・実施できる人材がじょじょに増えている。そういう人が県内各地で、誰でも参加できるクリーンアップを自主的にやることで、取り組みが面的に広がっていくことを目指しています」

(↑)指定の講座を修了した海ごみリーダーの中から13名を香川県海岸漂着物対策活動推進員として県が委嘱。後列中央が森田さん(2021年7月)

かがわ里海大学の里海ガイド養成講座は年々受講希望者が増え、環境保全についての県民の意識の高まりを実感しているという森田さん。さらに活動を広め、定着させていく鍵は、「人材育成に加えてコミュニティどうしをうまく繋ぐこと」だと考えています。

「実は香川には独特の現象がありまして…海ごみ対策に熱心なコミュニティと、ウルトラマラソンやトレイルランが大好きなランナーコミュニティ、そしてうどんを愛するコミュニティ。この3つが絶妙に連携しているんですよ。ビーチクリーンにはランナーが積極的に参加する。ランナーはランニング中にうどん店で給水する。うどん店は給水のオアシスポイントになることで海ごみ対策に貢献する…というように。親和性が高い人たちどうしなので、これらのコミュニティを核にして仲間が増えていきやすい。『AUE』という言葉があります。『朝から・うどん店で・宴会』の略です(笑)。朝7時から(※香川のうどん店は開店が早い)うどんを食べながらビールを飲んで海ごみの話で議論する。そんな場が普通にあって、海ごみ対策の推進力や地域の活力に直結しているんです」

SDGs(持続可能な開発目標)の14《海の豊かさを守ろう》のみならず、17《パートナーシップで目標を達成しよう》をも実現する鍵が、うどんにあったとは…。
それが香川。さすがは“うどん県”!

(↑)ある日のAUE。話題の一つは海ごみ対策。これぞ、うどん県ならではの朝活!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

大学卒業後に入社した大手電気メーカーでは3年目で中部支社営業1位。次に入社した外資系コンピューターメーカーでは2年目で国内営業1位と、本当にスーパー営業だった森田さん。そのプレゼン力、伝えて相手を動かす力が、いま海ごみリーダーとしてフルに発揮されているもよう!

自分を海の生き物に例えると?

「スナメリ。瀬戸内海で生まれて、瀬戸内海で遊んでいるから」

背びれが無く、丸っこくてなんとも可愛いスナメリ。愛されキャラな感じが森田さんと共通かも。ちなみにスナメリはクジラの仲間。汚染物質を体内にためやすいため瀬戸内海の環境のシンボルとも言われ、スナメリが元気なら海が元気な証拠なのだとか。