“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

和歌山

海は、おさななじみ

生涯アングラー!串本観光のキーマン

宇井 晋介

SHINSUKE UI

PROFILE
生年月日
1956年1月26日
主な活動エリア
南紀エリア
南紀串本観光協会の事務局長。和歌山県東牟婁郡串本町出身。
大学では魚類生態学を学びヤマメなどを研究。卒業後は故郷の串本海中公園に就職し、学芸員兼飼育員として勤務したのち2006年に館長に就任。館長時代は水族館PRと観光企画に辣腕を振るい、そこで培ったノウハウを活かして2016年から現職。無類の釣り好きで釣り歴は60年以上。個人で釣り大会を企画するなど、釣りを観光に活かす取り組みを公私で長年続けている。

串本名物「珍魚釣り」?! 海に優しい釣り人を増やしたい

潮岬(しおのみさき)が太平洋へと突き出した、本州の最南端である串本町。
沖合を流れる黒潮の影響で、赤道付近から暖かく澄んだ海水が大量に運ばれてくるため冬でも水温が高く、世界の北限と言われるテーブルサンゴ(クシハダミドリイシ)の群落などの美しい海中景観が一年中見られることで知られています。

サンゴの種類が非常に多く、群生域が大規模であることも特徴で、2005年11月にラムサール条約に登録。温帯と亜熱帯の海が両方あるため魚種も多く、生物多様性が非常に豊か。そのようなユニークな串本の海を紹介するテーマパークが「串本海中公園」であり、海中展望塔と海中観光船をメインに、地元の生物を紹介する水族館も備えています。

(↑)(↓)海中公園の施設の様子。上写真、赤い橋の先にあるのが海中展望塔

この串本海中公園に長年勤め、現在は串本の観光振興のキーマンとして活躍しているのが、宇井晋介さん。学芸員の資格をもつ飼育員として海に関する調査研究と飼育に長く携わってきた“海のプロ”であり、かつ、串本の海洋資源を活かした観光イベントやPRにも長けているという、稀有な存在です。

「子どもの頃から海と釣りが大好き。海中公園ができたのが中学3年の頃で、その時からずっと憧れて…水族館で働きたいなと思っていました。夢を叶えて大学卒業後に就職したんです。調査や飼育や色んなことをやってきましたが、ずーっと楽しいですね。好きなことしかしていないから(笑)。今の観光協会の仕事も、串本の海の良さを伝える仕事ですから、ベースになっているのは海中公園での経験と…海への愛、釣りへの愛だなぁ」

(↑)海中公園のダイビングパーク前で、修学旅行の子どもたちがシュノーケリングを体験。左端が宇井さん

「串本の海は面白い。潮岬を中心に、その左側(西)は亜熱帯のサンゴの海。右側(東)は温帯の海藻の海です。これは非常に珍しい状態で、この周辺の生物多様性はズバ抜けて高いです。海藻やサンゴを始め色んな生き物がいるので、シュノーケルを用いた海中自然観察は子どもたちにもおすすめですね」

(↑)海藻押し葉は人気の自然体験。アートとして楽しむだけでなく、磯焼けの話も伝える

串本海中公園では、サンゴ群落の保全と再生の研究、絶滅が危惧されるウミガメの生態と繁殖の研究、そして子どもたちに海への関心を深めてもらうための磯観察やシュノーケリングといった体験プログラムを提供するなど、様々な活動に取り組んでいます。

海洋調査も積極的に実施しており、宇井さんも海中公園勤務時代は、高知や沖縄、日本海側、海外では東南アジアのブルネイまで調査に行ったこともあるとか。

「黒潮遡上調査は大規模でした。全長10mほどのクルーザーで、串本から黒潮を船でたどって沖縄の八重山諸島まで行く海洋調査です。燃料補給用にドラム缶2本を積んでの航海でしたが、途中で大しけの中、数百頭のクジラとイルカの大群に囲まれたり、黒潮の真っ只中で航路を見失って危うく難破しかけたりと、波乱万丈でした…。ただ、この調査によってサンゴ礁の北限はほぼ吐噶喇(トカラ)列島辺りだという事が分かったんです。現在は地元の調査を毎年幾つかやっています。長いもので40年近く定点でやっていますので、将来的に価値が出るデータになるはずです。今の和歌山県南部の磯焼けの変化もこの定点調査のお陰で大体把握できています」

※「サンゴ礁」は死んだサンゴが地形を形作っているものを指します。串本で見られるのはサンゴ礁ではなくサンゴ群落です。

(↑)黒潮遡上調査の時の写真。前列左端が宇井さん。調査船は吐噶喇列島や宮古島を経て1ヶ月で八重山諸島の石垣島にたどり着いた

海中公園の館長に就任してからは、現場の仕事よりも情報発信や観光プログラムの企画・開発に多く関わるように。水族館のバックヤードツアーに学芸員の解説を組み合わせた「水族館飼育体験」を始めたりもしました。

宇井さんのアイデアで多くの体験プログラムが実現してきた中でも、特に串本らしい、そして釣りが大好きな宇井さんらしい名物企画があります。それは…「珍魚釣り」。串本の海は魚種が日本トップクラスに多いことと、釣りのメッカ=“フィッシングタウン”と銘打って売り出しているという二つの特徴を活かすべく8年前に生み出されたアクティビティで、現在は宇井さんが事務局長を務める南紀串本観光協会が提供する体験プログラムの中でも、子どもがいるファミリーに高い人気を誇っています。

「珍魚って、要は雑魚です(笑)。外道(げどう。釣り用語で、狙った本命以外の魚のこと)を主役にする大会をやりたいな~と思いましてね。外道だって、要らないものじゃないよ、海にとっては必要なんだよって子どもたちに伝えています。味や値段とは違う、珍しさという価値基準で魚を見ると、多様性が高い串本の海の凄さがよりはっきりと感じられますしね。かつては年に1回10月に100人程度での開催でしたが、今は通年です。修学旅行で活用していただくことも多くて、今年(2021年)は10月現在までで400人を超えていますね」

珍魚釣りは、参加者が釣り上げた魚でその日だけの「串本珍魚水族館」を作り、スタッフが解説をして、海や魚の知識を深めてもらうという内容。最も珍しい魚を釣った人が「珍魚大賞」に選ばれます。また、釣った魚は全て生きたまま海に返すことが基本ルール。針に触らず魚を傷めずに外す方法も教えています。

(↑)釣り上げたのはスズメダイの仲間

(↑)この日だけの、串本珍魚水族館

(↑)珍魚大賞に選ばれた参加者にコメントをもらっているところ

(↑)珍魚釣り参加者みんなで記念撮影!左端が宇井さん

さまざまな体験型観光を通じて串本の海の楽しさを発信する宇井さんが、今後の新しい目玉として準備中なのは、遊漁船を使った「ロケットクルーズ」。串本にあるジオサイト(=南紀熊野ジオパーク内の地形的な見どころ)のほか、近い将来打ち上げられる民間ロケットの発射基地付近を陸からではなく海から望めるという貴重なクルーズ体験で、観光協会に所属する「南紀串本ガイド部会」の熟練ガイドが案内することも売りです。

(↑)テストクルーズの様子

「串本は遊漁船が多いので、それを活用できるというメリットもあります。ゆくゆくは漁師さんの副業になればいいですね。ロケットクルーズは2022年春にスタート予定です。あと今後やりたいことは、やっぱり釣り関連で…珍魚釣りの充実かな。海ごみ問題や温暖化による海の変化、SDGs関連の内容もテキストブックに盛り込んで、学びのコンテンツとして教育旅行でたくさん活用してもらえるようにしたいです。まあ学びといっても、基本は『釣りって楽しい!』の気持ちですけどね」

子どもの頃から海と遊び、大切に守り続けてきた姿勢は、「海は、おさななじみ!」という言葉が示す通り。
そんな宇井さんのような、海を守る釣り人、海に優しい釣り人が、どんどん増えていきますように!

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

釣りは幼稚園の頃におばあちゃんに習って以来、ず〜っと大好き。個人的にも釣りイベントをいくつも企画しており、「潮岬オフショアトーナメント」はもう25年以上も続けていて動員数もなかなかのものだとか。当然、観光振興にも直結。まさに、趣味が実益を兼ねまくりです。

自分を海の生き物に例えると?

「カエルアンコウ!別名アングラーフィッシュ。魚釣りをする魚です。眼に上にルアーのついた釣り竿を持っていて、これで魚を誘い、大きな口で一飲みにしてしまいます。時には自分の体ぐらい大きな獲物を食べてしまう事もあるんですよ。いつもついつい食べ過ぎてしまう所も自分にそっくりですし、ほとんど動かず、楽してご飯を食べようという暮らし方も、まるで自分を見るようです(笑)」

釣りする事が生きる事、生きる事は釣りする事。そんなカエルアンコウを、「誠にうらやましい存在…!」とうっとり語る宇井さん。そこまで純粋に釣りを愛せる宇井さんが、私にはうらやましいです!