“熱源”人材 - NETSUGEN JINZAI

三重

海は、ワクワクの源。

環境教育の新境地を目指すチャレンジャー

落合 真弘

MASAHIRO OCHIAI

PROFILE
生年月日
2002年9月2日
主な活動エリア
高校時代は鈴鹿市中心→大学進学後は全国各地へ
海洋環境保全グループSOM代表。三重県鈴鹿市出身。
2016年、鈴鹿中学校在学時に有志を集めてSOM設立。海ごみ問題の根本的解決を目指し、自作のロボットによる環境教育を幼稚園等で実施。地道な海ごみ清掃と独創的な環境教育活動が評価され、2019年にイオン・エコワングランプリの普及・啓発部門でグランプリを受賞。2021年4月に慶応義塾大学環境情報学部に入学し在学中(同年10月現在)。

魚型ロボットで挑戦! 面白くて新しくて、生き物に優しい環境教育を

「魚を愛する自分だからこそ、海を守る活動をしなきゃいけない。一生かけて取り組まなければ!!…と、急に目覚めちゃったんですよ。中2の時に(笑)」

そう語るのは、現在は慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で環境情報学部1年生として学んでいる落合真弘さん。
落合さんは、出身である三重県鈴鹿市で中学2年生だった頃に海洋環境保全グループSOM(エスオーエム。Save the Ocean Men)を仲間と立ち上げ、今もその代表を務めながら活動を続けています。SOMの主なテーマは、海にまつわる環境教育です。

「ただし従来型ではなくて、面白くて新しい環境教育を生み出していきたい。その第1弾が、“魚型ロボット”を作ることでした」

…なぜ環境教育のためにロボットを?
そもそも、人生をかけようと思うほど強烈な使命感に突然火がついたきっかけは何だったのか?
若き“熱源”が目覚めた、そのいきさつとは…。

(↑)(↓)アカウミガメのロボットとともに、地元の海で

父親が生物の先生で、海の生き物が大好きなのは親ゆずり。家では水槽で魚を飼い、愛読書は魚類図鑑、家族旅行の行き先は9割が水族館という少年時代でした。

「あだ名はサカナくんとかメダカ博士とか。小さい頃からしょっちゅうお父さんと津市の河芸(かわげ)漁港へ釣りに行っていました。中学生になってちょっと久しぶりに釣りに行ってみたら、アレ?なんだか海が汚れているぞと思って、いつもの釣り場じゃなくて初めて海岸を歩いてみたんです。そうしたら、衝撃的な量のごみが…。まさに大ショックでした。自分はここでずっと釣りを楽しんできたのに、海ごみの現状に全く気づいていなかったのか、と」

それまでは遠い世界のことだった「海ごみ問題」が、一気に自分事として落合さんの胸に迫ってきた瞬間でした。
幼少期から親しんできた思い出の場所が、深刻な海ごみ被害にさらされている。その事実に直面した落合さんは、海ごみ問題を深く学び始め、知れば知るほど危機感を募らせていきます。そして「とにかく何かアクションを起こそう!」と、海の環境を守る団体を立ち上げることを決めました。

(↑)海岸清掃で海ごみの現実を知るのも大切なこと

まずコアになる仲間を集めて、最初は落合さん含め4人でSOMを結成。その後は狙った友人たちに熱い想いを伝えることでどんどん巻き込み、鈴鹿高等学校に入る頃にはメンバーが25人にまで増えていたそうです。

「SOMの目的は、海からごみを無くすこと。減らすことじゃありません。無くすこと!です。未来の海ごみ根絶のためには、①今までに出たごみを回収する。②新しいごみを出さない。①のためには海岸清掃。②のためには、ごみを捨てない人を育てるしかない。つまり環境教育ですね」

自分自身、海を守りたいという想いの原点は、釣りなどで魚と楽しく触れ合ってきたことでした。楽しいから好きになり、より深く知りたくなる。知れば知るほどまた好きになり、守ろうと思う。このサイクルを回すために子どもたちにどんな体験をしてもらうかー。

「知るために魚と触れ合う、といっても実際に触ると魚はすぐに弱ります。変温動物である彼らは体温がとても低いので、人間に触れられるだけで火傷レベルのダメージを受けてしまう。そんな方法は本当の環境教育とは言えません。だったら、実物ではなくて魚型のロボットを作っちゃえばいいじゃないかと思ったんです」

小学6年生の時にロボットを作ったことがある(しかもロボットコンテストに出場して中学生相手に全勝する快挙!)という経験をもとに、魚型ロボットの製作をスタート。
1体目はイルカ型ロボットに挑戦し、初めてで苦労も多く半年以上もかかったそうですが、見事完成。その後はタイやカレイ、スズキなど、地元で見られる身近な魚に似せたロボットを続々と製作しました。
落合さんの鋭い観察眼と魚への愛、そして執念の賜物でもあるロボットたちのクオリティはかなりのもの!

(↑)(↓)スズキを模したロボットの製作過程。徹底的に観察することで、形や動き方を本物のスズキに近づけていきました

(↑)これまでにさまざまな魚のロボットを製作。マンボウやスナメリまで!(※写真は合成です)

「魚型ロボットをプールで泳がせて、子どもたちに触ってもらい、三重の海にはこういう生き物がいるんだよと知ってもらう。アカウミガメなら、三重の若松や津の海にも産卵に来ているんだよと教えてあげる。子どもたち大喜びです。そういうわくわくする体験とセットで、地元の海がごみで汚れている写真を見てもらい、現状を知ってもらいます。楽しく豊かな海の世界も、深刻な問題も、どちらも身近に感じてもらいたいのです」

(↑)(↓)アカウミガメのロボットは大人気!

子どもたちに写真を見せる時、「ごみが多いよね」とか「魚たちがかわいそうだよね」とは絶対に言わない、というのが落合さんのルール。答えを示すのではなく、自らの気づきを促すことに徹しようと決めています。

「子どもたちに限らず同世代でも、海の見え方が根本的に違うんだなと感じる人はいます。彼らにとって海はただの水のかたまり。その場合、認識を変えないと海の魅力は見えてきません。海の中はとんでもなく豊かで、生き物がたくさんいる場所なんだと、他人から与えられる言葉ではなく自分が感じて気づくことでしか、認識は変わりません。そのきっかけを提供し続けるのが、SOMの活動です」

(↑)子どもたちへの説明にはさまざまな工夫を凝らします

SOMは、地道に続けてきた海岸清掃、魚型ロボットによる幼稚園等での環境教育活動、鳥羽水族館とコラボした啓発活動などが注目され、2019年には第8回イオン・エコワングランプリの普及・啓発部門でグランプリ(内閣総理大臣賞)とベストプレゼンテーション賞を受賞。2020年には第30回ホビー大賞で文部科学大臣賞を受賞しました。

落合さんは高校を卒業した現在もSOMの代表を継続しており、その活動を全国へ広めるとともにさらなるステージアップを目指しています。
面白くて新しい環境教育を、というテーマは中2の時から揺るぎません。あとは自分をアップデートし続けて、手法を編み出すのみ。

「現在メンバーは25人。進学で全国に散らばって、代表の僕は神奈川、副代表は富山。九州や海外へ行った仲間もいます。海岸清掃など各地でやれることは各々でやって、それぞれの活動や学びをSOMとして束ねてWeb等で発信していきます。僕自身、ロボットの次の一手をどうするか、新たなインプットを仕込むために慶応SFCを進学先に選びました。アートや哲学や、いろんなジャンルを学びたい。メンバーそれぞれが同じように学問領域を広げています。僕たちSOMの今後の活動に、どうぞ期待してください!」

★ 編集後記 ★ 実はこんな人!

「僕、老けてるのかも…。同級生らと活動してる時も、いつも顧問に見られてました(笑)」
確かに落ち着いて見える落合さん。SOM代表としての責任感が強すぎて、大人っぽくなっちゃった!?

自分を海の生き物に例えると?

「チョウチョウウオ。僕はなんとな〜く魚の気持ちが分かるんですけど、淡水魚より海水魚のほうが表情が豊かで、楽しんで泳いでいるように感じます。特にチョウチョウウオがイイ感じだなと思って」

鮮やかな色、ハート形のような体でおちょぼ口がかわいらしいチョウチョウウオ。「僕、老けてる」と言いながら、趣味や性格はカワイイ系と見た!