松前流のおもてなしが自慢。志を共にする仲間たちと、ふるさとを元気に!
北海道の最南端にある松前は、道内唯一の城下町。津軽海峡を挟んで青森県と向き合い、日本海航路の商船「北前船」が伝えた文化が今も残る、歴史ある街です。
その松前の中でも最古の老舗旅館を切り盛りしながら、海産物を軸とした地域PRにも取り組み、津軽海峡マグロ女子会(通称、マグ女(まぐじょ))のリーダーの一人として斬新な情報発信を続けているスーパーアクティブ美人女将。それが杉本夏子さんです。
(↑)本州の最北端、青森県大間崎のマグロ像にてマグ女のメンバーと。左から3番目が杉本さん
杉本さんは、銀行で働いていた30歳の時に「一生続けられる仕事に打ち込みたい」と、家業の旅館を継ぐことを決意してUターンしました。
「帰ってこいと言われたことは一度もなかったんですけど…やっぱり松前が好きだから、ふるさとに戻りました。当時はちょうど観光のあり方が見直されて、その土地ならではの暮らしにスポットが当たり始めていた頃。老舗旅館として、変わるなら今がチャンスだと思いましたね」
時代の流れを敏感に感じ取るのも女将の才覚。運営を任されるようになってすぐ、自分の感性を活かした旅館改革に着手した杉本さんは、魅力化の第一歩としてまず宿の食事を見直しました。
自分たちが子どもの頃から当たり前のように食べてきた食材や、地元民しか食べないような海の幸、山の幸。例えば浜辺で手摘みする岩海苔や、ひじき、もずくといった海藻類、によ(えぞにゅう、えぞにお)と呼ばれる野草などを取り入れて、「本当の松前らしさ」を伝えるような料理を増やしていきました。
「とりあえず毛ガニをどうぞ、じゃなくて!(笑)。松前に、この時期に来ていただくからにはこれを召し上がっていただきたい!というものを出そうと。松前漬は有名ですけれど、他にも美味しい郷土料理がいろいろあります。ただ、地元でしか食べないものはスーパーなど小売りの流通には乗っていないので入手が困難。そこで、浜のお母さん(=漁師のおかみさん)達に協力してもらうことで食材を確保しました。お正月に食べる郷土料理『くじら汁』は、くじらの肉はもちろん野草のによも使いますが、その野草も浜のお母さんたちのおかげで確保できています」
(↑)“浜のお母さん”たちと。手摘みの岩海苔を使った特製弁当「海苔だんだん」を商品化できたのはお母さんたちのおかげ
(↑)(↓)1862年に行われた松前藩14代藩主の婚礼の祝膳を参考にして開発したという「藩主料理」。松前産の昆布とスルメを使った女将手作りの松前漬、松前の名産である蝦夷アワビを使ったアワビ飯、松前の正月料理クジラ汁など、郷土の伝統の味と歴史が詰まったスペシャル御膳!
地域と一体となって旅館の魅力化に取り組み続けたことで、松前の海への愛は増すばかり、そして松前全体のまちづくりへの想いも高まるばかりの杉本さん。
その活動は、2014年の北海道新幹線開業をきっかけにさらなるステージアップを遂げます。津軽海峡マグロ女子会、通称「マグ女」の旗揚げです。
「まちづくりのシンポジウムで、津軽海峡の向こうにいた同志と出逢ってしまったんです…。今はマグ女の青森側とりまとめ役をしている、島康子さん。彼女と意気投合したことが、マグ女の結成につながりました。ようやく開通する北海道新幹線が“動脈”ならば、私たちは“毛細血管”。動脈が本来の役割を果たすためには、私たち毛細血管が健康で活発じゃなければ!と。津軽海峡圏、すなわち北海道の道南と青森県の女性たち、当時は13市町村の約70名がメンバーとなってマグ女が発足しました。活動内容は、地域を盛り上げる観光イベントを企画したり、地域に眠る宝物のような素材をおみやげとして商品化したり、とにかく楽しく面白く!地域資源の付加価値化です」
(↑)杉本さんが“やっこねえ”と慕う同志、マグ女の青森側とりまとめ役、島康子さんと
マグ女のメンバーは2021年6月現在、18市町村の93名。年齢は20代から70代、職業は旅館女将、旅行会社プランナー、カフェ経営者に美容師さん、アナウンサー、デザイナー、新聞記者、行政マンから主婦まで、とにかく異業種集団で発想豊富、それぞれの得意技を活かせることが強みです。
(↑)マグ女のミーティングの様子。異業種の仲間がアイデアを出し合います
マグ女が掲げるミッションは3つあり、一つ目は連携。人をつなげて道をつくること。二つ目は地域からの発信。地元の人から学び、足元に光をあてること。三つ目は創造。津軽海峡圏の元気づくりの牽引役になること。
「いま現在、この新型コロナウイルスの危機の中でも、どうにかして地域の子どもたちに、地元でこんなにも楽しそうにふるさとのまちづくりに頑張っている大人がいるよ、という姿を見せたい。熱い想いを私らしく表現したい。そういう気持ちが、この三つ目のミッションに入っています。自分の娘にも元気なお母さんを見せ続けているので、『大人になったらマグ女に入りたい』と言ってくれていて嬉しい限りです(笑)」
2016年からは「マグ女のセイカン博覧会」という広域観光イベントを実施しており、津軽海峡圏の各エリアごとの寄り道プログラムを用意。クリエイティブでパワフルなマグ女たちが縦横無尽にプロデュースすることで、大胆かつ魅力的なイベントだと注目を集めています。
(↑)セイカン博覧会でのワンシーン。「江差・北前のひな語り」というイベントで、和服で華やかに街歩き
旅館もマグ女も、「大げさじゃなくても、身の丈に合った自分たちで出来る活動をコツコツと継続していくことが未来に繋がるはず」と語る杉本さん。
松前が、そして松前を含む津軽海峡圏が元気であり続けるために、漁師や漁師のおかみさん達を始めとした地元の皆さんと手を取り合い、「この地を訪れてくださったお客様に、海の恵みを体感してもらえること」を目指して地道な発信をしていこうと心に決めています。
どーんと構えて老舗旅館を守りながら、軽やかに動いて各方面と連携し、交流を武器にチャレンジし続ける。
スーパー女将とその仲間たちが、ますます魅力的な「セイカン(青函)」を見せてくれそうです。
(↑)セイカン博覧会のイベントの最後のパーティで、マグ女の集合写真。この決めポーズはマグロの尾びれで頬を挟んでいるイメージだとか!