海ごみ問題への関心を広める鍵は…遊び心!
のぞきこんで回すと、色とりどりのキラキラした世界が広がる不思議なおもちゃ、万華鏡。
その万華鏡を、庄内海岸の海辺で拾ったマイクロプラスチックやシーグラス、貝殻などを使って手作りできたらー。
「…子どもたち、喜びますよね(笑)。作るのも楽しいですし、できたものを友達と見せあいっこするのも楽しい。自分で作ったものを親御さんに見せるのも嬉しい。すごく好評のワークショップです。万華鏡を作った後に、漂着ごみや環境問題の話をすると、ちゃんと関心をもって聞いてくれますしね」
そう話すのは、「海辺の万華鏡工作ワークショップ」を考案した大谷明さん。もともと工作好きだったこともあり、「(海ごみだけど)いろんな色があって綺麗!」という奥様の何気ないつぶやきを聞いて「…このカラフルな素材があれば万華鏡が作れる!」と閃いたのが開発のきっかけだったとか。
“ものづくりにときめく気持ち”をフックに、楽しみながら海ごみ問題を知ってもらうという体験型の学習プログラムが人気を博し、2019年から2021年8月現在で1,000人以上の子ども達がこのワークショップに参加しました。
大谷さんは、山形県酒田市を拠点とするNPO法人パートナーシップオフィスに所属し、庄内地域の海ごみ対策に10年以上取り組んでいます。
2010年に入社してすぐ担当したのは、「飛島クリーンアップ作戦」の事務局でした。飛島(酒田市)は、本土から約40km沖合にある山形県唯一の離島で、人口200人にも満たない小さな島。北上する対馬海流が運んでくる海ごみが集積しやすく、2000年頃には海岸の一部にプラスチックや漁網など大量のごみが壁のように積み重なる酷い状況だったそうです。
その問題を解消すべく、2001年に山形県と酒田市が音頭を取って始まったのが、島内外のボランティアによる清掃活動「飛島クリーンアップ作戦」で、大谷さんが着任したのはちょうど活動10周年の時でした。
「入社していきなり10周年記念イベントの事務局をすることになり、訳が分からないままとにかく忙しかったのを覚えています(笑)。でも、高齢化・過疎化が進んで清掃にも人手が足りない離島の現実や、いろんな人と連携しながらごみ回収を行うことの意義を、現場で肌で感じていくプロセスがすごく良かったなと。私は新潟の大学で機械工学を学んでいましたが、卒業を待たずに辞めてUターンして今の職に就きました。海ごみ対策については実際にやりながら学んで、じょじょに使命感のようなものに目覚めていったのかもしれません」
(↑)(↓)飛島クリーンアップ作戦の様子。島内外、県内外のボランティアにより毎年200人規模で開催してきたが、現在は新型コロナウイルス感染対策のため開催見合わせ中。
2013年には、県の委託事業として海岸漂着物を題材にした環境教育プログラムの開発を担当。自然体験のプロにヒアリングしたり、学校の先生を交えた検討会を実施したりと、「さまざまな立場の人の意見を取り入れてみんなで考え抜いた」という1年間を経て、渾身のプログラムを完成させました。
それをもとにして2014年にスタートしたのが「とびしまクリーンツーリズム」(主催:山形県)です。
とびしまクリーンツーリズムは、県内各地の小学生とその親、高校生や大学生、社会人を対象に、飛島での海岸清掃や講義のほかシュノーケリング、夜光虫観察、漂着ごみアート制作などを行う 1 泊 2日のツアー。海ごみ問題は勿論、観光地としての飛島の魅力を伝えるPRでもあります。
(↑)参加者も大喜び、漁船クルージング!
(↑)ナイトハイキングを楽しんだ後には夜光虫の観察
「体験型で楽しみながら学べること、そして親子向けであることがポイントです。子ども同様、親世代への啓発を重要視しています。『環境に興味は無いけど飛島に来てみたかった』『美味しい海の幸が食べられると思って参加した』という参加者から、島での体験の後には『海の環境問題を学ぶ良い機会になった』『ライフスタイルを見直すきっかけになった』という声が聞かれました。これって意識の変容ですよね。海ごみだけではなく魅力的な体験とリンクさせて伝えることで、これまで関心を持ってもらえなかった層へも海ごみ問題の情報を届けることができるようになったと自負しています」
大谷さんはツーリズム開始当初から企画・運営を担っていましたが、2019年度からは飛島で若者が設立した「合同会社とびしま」が事業を継承。以後、幅広い世代・団体を巻き込んだ海ごみ対策モデルを確立したことが高く評価され、「海ごみゼロアワード2020日本財団賞」を、とびしまとパートナーシップオフィスの2団体が合同で受賞しています。
(↑)漂着物を集めて「この海ごみはどこから来た?」と考える時間も
海ごみ問題に10年以上取り組んでいても、「飽きない!」と断言する大谷さん。
「環境分野では常に新しい研究が行われていて、それまで未解明だったことが学術的に説明できるようになったりします。海ごみの中にも流れ着きやすいごみと流れ着きにくいごみがあるとか、面白いですよね。最近は専門家と協働で河川でのマイクロプラスチック実態調査なども行っていて、海ごみとの繋がりを考える上でも興味深いです。あと、出前授業やワークショップで小学生相手にアノ手コノ手で注意を引こうと必死で頑張るのも楽しいかな(笑)」
(↑)川ではマイクロプラスチックごみの実態調査に着手。社会人向けの報告会も実施している。
県内の自治体や団体から構成される「美しいやまがた海のプラットフォーム」の協働事務局の一員として、海ごみに関する出前授業を行うのも大切な仕事。また、地元の東北公益文科大学で子ども向け環境学習のノウハウを教える講師を務めるなど、長年の経験から培ったスキルを共有し人材育成につなげていく活動も始めています。
昨今のコロナ禍の中にあっても、小学校の授業用のオンライン講座といった新しい学習コンテンツを増やしました。
「コロナの影響で、限られたリソースでどうにかしなきゃ!という発想から新しく価値あるものが生まれました。もともと、内陸の住民や海ごみへの関心が低い層にどうやって情報を届けて消費行動の変容を促すかが課題なので、これまでにない多様な“海への入り口”を増やす必要があった。オンラインが定番化したことはとても良い傾向なんです」
柔軟なアイデアと新しいツールを駆使して、「内陸でも海を感じるイベントを増やしたい」と意気込む大谷さん。冒頭の万華鏡ワークショップも、ビーチコーミングとセットにしなくても、会場さえあればどこででも実施できるようにと考案されたものです。
また今後は、最上川の環境保全に取り組む団体と連携して、海側と内陸側を中継するオンラインイベントも計画しているんだとか。
「啓発の鍵は『体験を楽しめること』です。海からどれだけ物理的に遠い場所に住んでいても、日常生活の中で海を感じられるように、多種多様な体験プログラムを工夫して提供したい。海の環境を意識する人、守る人をもっと増やすために、海との“心の距離”を縮めるような仕掛けをもっと編み出していきたいですね」