コロナ禍だからこそ繋がろう!縦横無尽の協働を福岡から発信
清野さんが籍を置く「生態工学研究室」は、自然と人間が共生していく社会づくりを目指しています。
もともと清野さんはイカやタコ、カブトガニやウミガメなど昔から人間の近くにいた海洋生物の研究者でしたが、対象が生物から海辺へ、そして“人の営み”へとどんどん広がり、今では生物そのものよりも人間や地域社会にまつわることが主要な研究テーマになっています。
「例えば干潟の研究を進めると、開発と保全の問題や法制度、沿岸での暮らしなど、どうしても人の領域と重なってきます。結局、生態系を守るためには“海と人との関わり方”をどう変えていくか、経済や文化なども含めて多角的に考えていくことが大切です。私は12年前、社会変革に繋がるような海の研究をしたいと思って関東から九州へ移住しました。なぜなら九州は、海洋民族的で海と人とが近いからです。特に対馬(長崎県)、五島(同)、玄界灘あたりは歴史も非常に濃くて、興味が尽きませんね」
(↑)九州大学の近くにある福岡市西区今津。博多湾の湾口で、鎌倉時代に建造された元寇防塁(げんこうぼうるい)が残る場所
(↑)研究で通い続けている長崎県の五島列島、福江島にて、清野先生も参加している海ごみ回収活動の様子
玄界灘に面し、北九州市と福岡市の間にある宗像(むなかた)市。
この一帯は古来から大陸と交流があり、航海安全のための国家祭祀が1500年以上も前から捧げられてきたとされる沖ノ島も、宗像市の一部です。
沖ノ島は島全体がご神体で、厳しく立ち入りが禁じられてきた本土沖約60kmの孤島。沖ノ島を含む宗像エリアは宗像大社を核とする信仰の地であり、2017年に「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」としてユネスコの世界文化遺産に登録されています。
そんな宗像も、清野さんが精力的に研究しているフィールドの一つです。
「宗像は東アジア諸国と日本の交易の要衝で、この地の豪族だった宗像族は海を通じた交易で栄えた海の民、所謂『海人』です。宗像海人族と、その末裔である今に生きる宗像の人々は、宗像大社の教えである自然への畏敬を日々の生活に取り込み、海の恵みを長きにわたり大切に利用してきました。さまざまな環境問題が顕在化して持続可能な在り方を模索しなければならない今こそ、海と共生してきた古代海洋民族の知恵を掘り起こして活かしたい。そう思って、現地調査と研究を続けています」
(↑)宗像の漁師さんが企画した「宗像海人族ツアー」での写真。場所は鐘崎沖、前方は宗像大島、地島
宗像にある漁村の鐘崎(かねさき)は日本の海女(あま)さん発祥の地とも言われており、清野さんによると、その海女文化は日本沿岸の海流をたどって列島各地の磯へと展開していったのだとか。
「海流の視点で考えるとダイナミックな繋がりが見えてきます。日本海の対馬暖流を利用した交易で、五島(長崎)から隠岐(島根)、能登(石川)、青森、北海道も繋がっている。古代からのネットワークが今現在まで続いているって凄いですよね。その関係性を、文化の継承や課題の共有、解決へのヒント発見に活かせるのではないかとも考えています」
(↑)毎年10月1日に行われる宗像大社の祭礼「みあれ祭」。漁船およそ数百隻による大規模な船渡御で、航海安全や大漁などを祈願する
循環型社会と海ごみ問題をテーマに、九州大学が日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として2020年から展開している「九州大学うみつなぎふくおか」。清野さんはこの「うみつなぎ」の統括プロデューサーを務めています。
「海を適切に管理していく上で、川や海のごみ分布データの重要性が非常に高まっている」との認識のもと、スマートフォンやWeb-GIS(=Webをベースとした地理情報システム)を介し、博多湾に注ぐ河川の流域でのごみ分布データを大勢の市民の協力によって収集し、そのマッピング情報を公開するという試みに初めて挑戦。
また、海ごみ問題を学べるワークショップやオンライン学習、ビーチクリーン、漂着ごみの回収と調査など、2020年の夏から冬にかけて、大学生や高校生、地域住民や地元企業などを巻き込みながらさまざまな活動を続けてきました。
(↑)(↓)九州大学うみつなぎふくおか第2回 「海辺の教室」(2020年10月)で、鳴き砂の海岸「姉子の浜」(福岡県糸島市)でのフィールドワークの様子。ピンクのシャツを着て解説をしているのが清野先生。
それを経て2021年3月、「うみつなぎ」はオンラインでシンポジウムを開催しました。題して、「コロナ禍でもどげんかせないかん!福岡・九州の海 つながる人の環が海ごみゼロを実現するキックオフミーティング」です。
「それまで『ごみ分布データ』を介してつながってきた地域のさまざまな関係者が集まる、公開Webミーティングでした。環境問題に限らず、各人が個別に頑張っているのに全体としてイマイチうまくいかないっていうことがよくあって、その場合、繋がりが分かると状況が変化してうまくいくケースが多いですよね。今回のミーティングはまさにそのような契機だったかと思います。ごみの現状の“見える化”だけではなく、例えば糸島地域で行われている数々のビーチクリーン活動など、市民の想いや努力の痕跡が“見える化”されたことに大きな意味がありました。中・高校生らを含む多世代で、それぞれの想いや知見を共有でき、それらを博多湾・玄界灘の環境を守るという具体的な行動へと発展させていく足がかりを作り出せたと感じています」
(↑)「姉子の浜」の鳴き砂についての講義を行う清野先生
清野さんにとってシンポジウムの手応えは大きく、「コロナ禍でも、IOTを駆使すれば、人の密集を避けて環境活動ができる!」ということを実感したと語ります。と同時に、「コロナ禍だからこそ、生身の人どうしの繋がりがより一層大切になってくる」とも。
地域の現場で海ごみ清掃に汗する人たちの小さな努力を集めること。
中高生らユースの想いをくみ取って、大人も共に考えること。
はたまた宗像海人族の研究のように、ルーツである古代人と時を超えて繋がることによって普遍的な知恵を得ることも然り。
清野さんの型にはまらない多角的なアプローチ、そして「うみつなぎ」がこれから繋いでゆくであろう多様な人の環は、極めて“グローカル”で熱い海ごみ解決ムーブメントを生み出していきそうです。