昔も今も魚の宝庫!大阪湾の現状を分かっといてほしい
「子どもらがよく『大阪湾で魚なんて獲れんの~?』って質問してくるんですよ。でも、大きな誤解やで!って返します。特に友ヶ島水道(和歌山県との県境)あたりは生き物の多様性もあるし、栄養分も豊富。大阪湾、実は漁獲量は瀬戸内海でトップクラスなんやで!って」
そう言って笑う鍋島さんは、大阪湾の環境や生物を調査・研究して45年。“魚庭(なにわ)の海”という呼び名もある大阪湾の、水産資源のポテンシャルも温暖化の現状も知り尽くす人です。
大阪湾は瀬戸内海の玄関口にあたり、明石海峡や紀淡海峡(=友ヶ島水道)からの潮流と、淀川や大和川など多くの河川が流入することで魚介類のエサとなる生物が豊富です。そのため良い漁場となり沿岸漁業が盛んで、魚種はイワシ類を中心にアジ、カレイ類、アナゴ、スズキ、タコ、エビ類、 カニ類、イカナゴなど実に多種多様。ワカメなどの養殖も営まれています。
高度成長期(1950年代前半~70年代前半)には、沿岸部の開発による埋め立てや公害による水質汚濁が進んで漁業にも大きな影響が出ました。しかしその後、官民が協力して法制度や漁場の整備など様々な施策を講じ、今では大阪湾の環境改善はかなり進み、豊かさを取り戻しています。
鍋島さんは、父親の影響で幼少期に釣りを始めたことがきっかけで生き物が好きになり、大学では水産学部で魚類増殖や海藻を専門に研究。22歳で水産試験場(当時)の研究員になってからは、大阪湾の環境を生物から見る生物モニタリング(定期的な調査と監視)や、関西空港建設が環境に与える影響のモニタリング、大阪湾の底生生物分布と魚類の食性研究など、多くの調査を行ってきました。
ノリやワカメの養殖指導で漁業者と関わることも多く、例えば乱獲や海水温の上昇などが原因で漁獲量が急激に減少したイカナゴについては、漁師が使う魚網の網目を大きくすることで稚魚を逃す工夫をするなど、漁業者と連携した資源管理にも取り組んでいます。
「いろんなことをやってきたけど、最近の温暖化による大阪湾の変化はとても興味深い。南方生物が出現したり、イカナゴやマアナゴなどの冷水性魚類の漁獲量が減ったり、無視できない変化が起こっています。例えば熱帯性外来種のミドリイガイは、本来3cmくらいで、昔は冬の海水温の低さで凍え死んでいたはずやのに、最近では冬を越すようになったばかりか12〜13cmまで大きくなる。さらに生息場所も岩の下に変わってきた。なぜかというと、南方系のナルトビエイが増えてきて貝を食べまくってるから。ミドリイガイはエイから逃れるために岩の下に隠れるようになったんですよ。温暖化は確実に、海の中の世界を変えている」
研究員時代に外部からの問い合わせ対応を担当していたこともあり、圧倒的な知識と経験に基づくユーモラスかつ分かりやすい説明が得意な鍋島さんは、テレビやラジオ、新聞や雑誌などでも積極的に発信してきました。
また、現在会長を務める大阪市立自然史博物館友の会には研究員になった当初から評議員として関わり、今でも会員らの磯観察会や勉強会で講師をしたり、自ら立ち上げた「大阪湾海岸生物研究会」のメンバーらと沿岸調査や他地域への合宿をしたりしています。
「海を守る仲間を増やすには、一緒に楽しく調査をするのが一番いいね。地元の海岸を観察しながら歩いて、地域の自然について現状や特色を知ることから、生物や環境への関心が深まります。そういうフィールドワークを続けてきた成果として、子どもから高齢者まで、環境保全活動に参加する人が増えたなぁって実感してます」
2005年設立の「大阪湾見守りネット」も、今は鍋島さんが世話人です。この見守りネットには大阪湾沿岸で環境保全活動を行うほとんどの団体が参加しており、団体単独では行えなかった広範囲の調査も複数の団体が協力し合うことで可能になりました。
「調査に加わった多くの団体が一堂に集まって話し合い、発表できるようになったことに大きな意義があります。大阪府・兵庫県の垣根を越えて交流する『大阪湾フォーラム』を2005年から毎年開催していて、もう16回やりました。メンバー同士の連携が進んで、発信力も影響力も増していると思います」
同志の増加を喜ぶ一方で、大阪湾が「埋め立てによって自然度が日本で最も低い海岸線になってしまった」ことを残念がる鍋島さん。環境に配慮が無い開発によって作り出された沿岸の地形や構造が原因で、海水が停滞して水質が悪化したり、生物の生存に悪影響が出ていることが調査によって分かっています。
「以前、僕らは大反対したのに止められなかった開発があり、それが引き金で漁業にも影響が出ました。あんなことは二度とやってはいけない。そのために僕が言いたいのは、もっと多くの人たちに『大阪湾が今どうなっているのかを分かっといてほしい』ということです。誰かが金儲けのために環境を壊そうとした時、海の現状をよく知ってる人がいっぱいいれば、反対の意見を大きな声であげることができる。『みんなで見守る』とは、そういうことや!」
温暖化も、乱暴な開発による環境破壊も、防ごうとするアクションの源は、一人ひとりの小さな関心。まず、遊びでいいから海を見に行くこと。何度も行くこと。そして何かに気づいたらしめたもの。「なにこれ?なぜ?」という関心から、知りたい気持ちになり、知識に、そして環境を守りたいという行動に繋がっていくはずー。
それが、鍋島さんの教えです。