「ほやっほ〜!!」 ほやドルが伝える、ふるさとの海への愛
海の月はクラゲ。海の星はヒトデ。では、海のパイナップルは…?
答えは、ホヤ。
オレンジ色のグラデーションが美しい、小さなパイナップルのような形の生き物で、東北地方では夏の味覚としておなじみです。
『五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)すべてを有する』とも賞される複雑な味わい。ミネラルなどの栄養も豊富、ミステリアスなビジュアルも相まって、ファンには熱烈に愛されているホヤ。
その産地である宮城県石巻市で、ホヤ愛あふれるPRソングを陽気に歌って地域に元気を振りまいているのが萌江さん。おそらく世界で唯一無二の、『ほやドル』(ホヤのアイドル)です!
ホヤ養殖が盛んな石巻市の牡鹿半島・谷川浜(やがわはま)に母方の実家があり、子どもの頃から…というより「母のお腹の中にいる頃から、新鮮なホヤを食べまくっていました!」と笑う萌江さん。海のそばで遊ぶことも多く、ホヤを始めとする海産物が大好きでした。
2011年、東日本大震災。高校1年生でした。矢川浜で暮らしていた祖父を津波で亡くし、自身も避難所生活を余儀なくされるなど辛い経験をしました。そこから3年、大学生になった頃に作った初のオリジナル曲が、『いしのまきのうた』。石巻の豊かな自然と人の温かさ、強さ、明日へ向かう勇気を歌詞に込めました。
「辛いときもずっと音楽に支えられていましたが、震災から3年経ってようやく気持ちの整理がついて、ふるさとへの想いを歌にできた。この曲が、シンガーソングライターとしての私の原点です」
♪
「い」いところだよ
「し」あわせなまち
「の」んびり時間が流れてゆくよ
「ま」けはしないよどんな試練にも
「き」ずなと笑顔で結ばれてるから♪ (『いしのまきのうた』より)
プロになろうと決めたのは、二十歳の頃。決意のきっかけは「大好きだった彼氏にフラれたこと」だそうで…元カレへの怨念パワーが暴走するままに、数々の失恋ソングの衝撃作(?)を生み出しました。…が、ブレイクには及ばず。就活もせずにバイトをしながら音楽活動を続けていたところ、転機が訪れたのは2017年、大学を卒業する頃にホヤの曲「ほやのマーチ」が完成した時でした。
ホヤは、東日本大震災前年の2010年は全国で10,272トンの生産量があり(※農林水産省の漁業・養殖業生産統計)、そのうち8割超が宮城県産。一大産地である宮城で、養殖のホヤは震災で壊滅的な被害を受けました。しかも、生産量の約7割を輸出していた韓国が、東京電力福島第一原発の事故を理由に2013年から水産物輸入禁止措置を実施。養殖ホヤは大きくなるまで約3年を要するため、震災後ようやく出荷できるまでに育った頃に、痛恨の禁輸措置。その結果、2016年、2017年と、生産したホヤの多くが廃棄処分になるという大打撃を被ったのです。
そんな状況の中、ホヤ業界のピンチを救おうと萌江さんが書き上げた曲が、「ほやのマーチ」です。
(↑)水揚げしたホヤの塊を愛おしげに抱く萌江さん
♪ほやほやほやほやほやほやほーや!♪と、なんとも陽気で分かりやすいホヤソング。
元気いっぱいのこの曲で、ホヤをPRして石巻の漁業を応援しようー!そう決めた萌江さんは、髪型をホヤの形に似せたおだんごの「ホヤヘアー」にし、オレンジの「ホヤカラー」のスカートと「ホヤT」を身にまとい、ホヤのアイドル=ほやドルとしてセルフプロデュース。
大学卒業してすぐの夏に、仙台のラジオ局Date fm(エフエム仙台)が「ほやのマーチ」を取り上げたことで一躍注目の的。明るいキャラクターが受けて翌年春にはレギュラーが決まり、番組の中継レポーターを務めるなど、あれよあれよという間に地元の人気者に。今ではDate fmとラジオ石巻で、週に4日もラジオでレギュラー出演しています。
「最初は母親から『恥ずかしいからやめて』って言われたり、ラジオのリスナーから『FMらしくない』って言われたり。でも楽しく歌い続けていました。ずっと『自称・ホヤ大使』でPRし続けていたら、想いが通じて…2019年に『いしのまき観光大使』に任命されたんです!市長にお会いしたとき、ほやのマーチを歌って『公認のホヤ大使にしてください!』ってお願いしたのが効いたみたい(笑)。石巻市の観光大使なので、ホヤ以外にも、カキ、石巻おでん、石巻焼きそばをテーマにした曲も作って歌っています!」
(↑)いしのまき観光大使の就任式にて。右は、当時の石巻市長、亀山紘さん
ほやドルとしてイベント等で活動し始めてから分かったことは、宮城に住んでいてもホヤをまだ食べたことがない人が意外と多いということ。そういう人に出会うたび、新鮮なホヤがいかに美味か、いかに栄養豊富か、どうしたら美味しく食べられるか等々を懇切丁寧に指南するのがほやドルの使命です。コロナ禍に見舞われてからは、自粛期間中も自宅で美味しくホヤを食べられるようにと、『美味しいホヤの捌き方』という新曲も作りました。
「ホヤの歌を聴いて初めて食べてみた、という人がたくさんいて、『人生で初めてホヤを食べる瞬間』に30〜40人は立ち会ったかな。初ホヤ体験を目の前で見ているのは感動です。その人たちの人生をより豊かにすることができたな〜って。活動する中で漁師さんや料理人の方ともたくさん繋がることができて、ますますホヤが、石巻の海が好きになってます!」
(↑)谷川浜の漁師さんのお手伝い。水揚げしたホヤの塊をバラす作業
2020年夏は、まひ性貝毒が発生したため旬の時期に出荷規制せざるを得ず、宮城のホヤ業界はまたまた大ピンチ。萌江さんは、ライブやイベントが制限されている中でもより多くの人にホヤを知ってもらって少しでも需要を増やすべく、ホヤ曲だけのCDアルバムを作ろうと奮起。初挑戦のクラウドファンディングを成功させ、前代未聞のホヤ曲100%アルバム『美味しいホヤの食べ方』を、同年秋にリリースしました。
さらに、ホヤを世界にも発信しようと『ほやのマーチ』英語バージョン、そしてフランス語バージョンも制作。フランス語バージョンはCDアルバムにも収録されています。(意外と流暢なフランス語はリモートレッスンでフランス人に習ったそうな)
(↑)ホヤアルバムと、萌江さんのホヤグッズなど。挨拶は『ほやっほ~!!』
「私にとって故郷である谷川浜は震災で壊され、様変わりしてしまったけれど、やっぱり海はふるさとだし、いつも身近に感じて生きていたい。ホヤの魅力の伝道師としてホヤ好きを増やしたいのは勿論ですが、一番伝えたいのは、ホヤが好きだからこそ、美味しいホヤを育ててくれる綺麗な海を大事にしよう!っていう気持ちです。これからも自分らしいパフォーマンスで発信を続けていきますよー!」
♪
No Hoya No Life
ホヤに出会えたことが私の人生♪
(アルバム収録曲『No Hoya No Life』)
ほやドルのピュアな想いはオレンジ色に燃えている。萌えている!
ホヤファンすなわち海を愛する仲間、まだまだ広がっていくはず。